ふたりだけの海

□始まり…
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息が続かなくなり、バッとドラは水面から顔を出した。




「ふふっ…あはは…!」

「え…?」


驚くことに湖に落ちたはずの少女は陸にいて湖の中にいるドラの方を見て声を出して笑っていた。

手には泉に落ちたりんごが握られている。


ドラは驚きを隠せなかったが、少女が無事だった事に安堵して陸に上がり少女の元へ歩み寄った。


水に飛び込んだドラはもちろん水に濡れてびしょびしょだった。
しかし不思議な事に泉に落ちたはずの少女の髪や服は全く濡れていなかったのだ。


「……」

ドラは少女に背を向け顎に手を当て考えた。


なんで濡れてないんだ…?
彼女は天使で…落ちる直前に翼を出して飛んだとか…?
いや…確かに泉には落ちたはずだ…バシャーンって音したし…

実は泉が凍ってって…いやそんな事は…







一人悶々と考えるドラの肩を少女はちょんちょんと突っついた。

「え…?」

ドラが振り向くと少女は持っていたりんごをドラに差し出した。



「えっと…」

少女は真っ直ドラを見つめてりんごを差し出し続けている。


「…くれるの…?」

ドラが問い掛けると少女はコクりと頷き、ドラはりんごを受け取った。



「ぁ…ありがとう…」

ドラがお礼を言うと少女は優しくにっこりと笑った。

その笑顔はまさに天使の様だった。






そして少女はふわりとドラに近付く。


「あなたは私の天使…私はあなた…あなたは私…」

「え…?」


それは心に直接響く様な声…

見つめた少女のその瞳は吸い込まれてしまいそうなほどに綺麗だった。



そして次の瞬間…瞳が見えなくなり目の前が暗くなった。

同時に柔らかい物が唇に当たる。




白い光と黒い光が混じり合いふたりを包んだ…










ドラがはっと我に返ると目の前にいた少女はいなかった。

残ったのは手の中のリンゴと、唇の温かい感触だけだった。




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