「ぼおうはふ,えうおひう」
「どうもお世話になりましたと王子は申してます」
片方は顔を腫れ上がらせ,もう片方は冷や汗をかきながら頭を下げる。
土下座をせんばかりの勢いで。
「いえ,二度と目の前に現れて下さらないのなら気にしませんから」
にこやかな笑顔と冷たい瞳を宿したスノウに見送られ,カースとビルスは屋敷を後にした。
「……ビルス」
「…なんでしょうか」
「…私はもうこの趣味とは縁を切る」
「…そうして下さい」
スノウの拳は,カースとビルスにとんでもないトラウマを残していた。
「カース様,お待ち下さい」
「なんだっ!来るのか何か来るのか,拳か。拳だろう!」
「早急にスノウ姫のことを記憶から抹消して下さい。人が二人ですね」
ビルスの言葉に落ち着きを取り戻し,カースもビルスが見つめる先を見る。
現れたのは,お婆さんと魔法使いの姿をした者という変わった組み合わせの二人だった。
「もぅし,聞きたいことがあるのですが」
「何か困りごとか,ご老体」
カースとそう聞くと何故か,お婆さんから殺気に似た気配を一瞬感じた。
しかし,直ぐにお婆さんが穏やかに答えたので気のせいだと決めつけた。
「お二人様は,森の奥にある屋敷から来られたのですか?」
「ああ」
「わたし共もその屋敷に行きたいのですが,場所を教えていただけませんかねえ」
「それならこの道を真っ直ぐいけば直ぐだ」
お婆さんと魔法使いらしき二人は頭を下げるとそのまま奥に行ってしまった。
「変わった二人でしたね,カース様」
「まあ,人それぞれだろう」
「人それぞれにしては…。結界のはられた森で方向を見失わずにいたり,わざわざ姿を変えていたお婆さんは怪し過ぎますがね」
さらりと言ったビルスに,何から聞けばいいのか分からなくなる。
「森に結界なんてあったか?」
「ありますよ。人の感覚を狂わせて迷わす結界ですね」
「姿を変えたお婆さんは?」
「先程のお婆さんは魔法で姿を変えてました。本来の姿がどんな方かまでは知りませんよ」
「なんで分かるんだビルス?」
「たしなみ程度に魔法は習ってますので」
そうか,としか言えないカースであった。
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