スノウが『小人』の家に住むようになり,一週間が過ぎた頃。
その日,買い出しを押し付けられたゼロとインサルトが森を歩いていた。
「重い,重い,重い。」
「ゼロ,こんな話を知ってるかい」
「どんな話?」
「重い重いって言い続けると言霊がかかって,もっと重くなるんだって」
「ふーん,そうなんだ。重いー重いー」
話を普通に聞き流したゼロに,インサルトはつまらないとボソリと呟く。
これがイグノランスだったら,楽しい反応が返ってくるのに。
何も考えないゼロが相手だと,何を言っても面白味が全くない。
「あれっ?…ねえインサルト,珍しく馬の蹄の音がするね」
言われて気づいた。
こちらに向かってくる馬の蹄の音に。
「何を言われても君は黙ってて,ゼロ」
「りょーかい」
余計なことを口走るゼロを黙らせ,音の方を見つめていると二頭の馬が見えたきた。
騎乗しているのはどちらも男性だ。
馬に乗った二人組は,ゼロとインサルトの目の前で止まると下馬した。
「申し訳ありませんが,この辺りに貴族の方のお墓はないでしょうか?」
「貴族のお墓?いえ,聞いたことも見たこともないけど」
というか,インサルトだけでなく誰も知らないだろう。
...
私有地であるこの森に,自分たちが知らない内に墓を建てることなど不可能なのだから。
「そうですか…どうしましょうカース様」
「困ったな。本当にこの森で間違いないんだろうなビルス?」
「私が調べた限りは間違いありません」
「なら,スノウ姫のお墓はどこにあるんだ?」
スノウ姫。
最近知り合った女性の名と同じ名。
「スノウ姫ってどんな姿してる?」
突然のインサルトの質問にビルスは首を傾げつつ答える。
「雪のように白い肌,血のように赤い唇,黒檀のように黒い髪をもつ,美しい17歳の女性だと聞いております」
「へえ…,そのスノウ姫のお墓の場所は知らないけどスノウ姫自身の居場所なら知ってるけど」
「はあ…スノウ姫自身ですか,お亡くなりになられたのでは?」
「生憎,霊感なんてもってないよ。彼女には足もあるし」
これからインサルト的に面白くなりそうだと思ったのだが…。
「まて,スノウ姫が生きてるだと。
だったらスノウ姫の遺体を手に入れる計画は台無しじゃないか!」
どうやら面倒なことになりそうだ。
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