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□April-4.
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え、今日が何の日か知っているかって?
April-4.
不意に美朱に問われて、私は首を傾げた。
私の隣でニヤニヤしている美朱には申し訳ないが、私には4月4日が何の日かと聞かれても、さっぱり見当がつかなかった。
そもそもこの紅南国に存在する行事など、南方紅南国建国記念日、皇帝陛下である星宿様のご生誕日、夏の星見祭り、あとは年末と年始のご挨拶くらいだ。
やはり訳が分からないままもう一度聞き返すと、実はね…と、私に耳打ちした。
「お、おかまの日!?」
「そう、柳宿の日!」
なるほど、だからずっと笑いを噴き出さんばかりの顔をしていたわけか。
美朱の世界では、3月3日に女の子のお祝いであるお雛祭り、5月5日に男の子のお祝いである子供の日があるという。
「で、その間に挟まれているから4月4日はおかまの日なの! 良かったね、柳宿のお祝いもできるんだよ! おめでとう!」
「……何だかそれ、喜んで良いんだか悪いんだか複雑だわ。第一、私は好きでおかまになったわけじゃないの……んんっ!?」
急に背伸びをしたと思ったら、美朱が私に唇を合わせてきた。
それ以上、私に言葉を発せさせないように、強く押し付けてくる。
―――あぁ、理性が切れてしまうじゃないのさ。
そして存分に私の唇を味わった後、美朱は私の肩に顔を乗せた。
「いいの。男でも女でも、私は柳宿だから好きになったんだもん。柳宿だけの記念日じゃなくても、私にはちょっとだけ、特別な日だって思いたいの」
「―――そう、優しいのね、あんたは」
単純な発想と、単純な記念日。
世間では存在することすら懸念される私たちでも、美朱はこうやって受け入れてくれる。
それがとてもくすぐったくて、思わず抱き寄せて頬をスリ寄せた。
「負けた」
悪戯を働いた子供のように無邪気な笑顔を見せる彼女には、到底敵わない。
「ありがとうね」
桃の花が散る。
春が夏に向けて、私と、そして周りの心を急かしていた。
fin.
2013/04/04
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