アメジスト(闇の末裔)

□緋い満月の下で
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オレは死神になる前から霊力があったからなのか、
今でも治癒と防御系の能力は高いらしい。

そのおかげか動脈が裂けてもまだ生きているけど、
体が動かないんじゃ抜け出せないし、
まだ塞がっていない傷口に触られたり、
首を動かしたりするとやっぱり痛い。

それを知っているのか、邑輝はわざとらしく密の首筋や、
血塗れの頬を指でなぞり、顎を掴んで顔を上に上げさせた。

 密「・・・ッう」

オレが短く呻くと邑輝は楽しそうに話し始める。

 邑輝「そのワイヤーは女の髪を縒(よ)り、
どんな力も吸収する結界符を張り巡らせて
ある。
翼をもがれた気分はどうだね?ボウヤ。」

ククっと嗤う邑輝を睨みつけ、密もやっと口を開く。

 密「・・・オレをどうする気だ。」

なるべく低い声で言うと、邑輝は密の瞳をジィッとほんの一瞬だけ見据え、
先程密の動脈を切り裂いたナイフを、柱にドカッと豪快な音をさせ突き立てる。

密の頬には薄く線が入りツツ−っと赤い血が流れ出してくる。

 邑輝「お前は都筑を引きずり出すエサだよ。
至高の力を手に入れる為のな・・・」

 密「・・・都筑?」
(至高の力・・・・・何の事だ?)

密は邑輝の話している事の意味が理解できないが、
醸し出しているドス黒い澱んだ感情にも疑念を抱いた。

訝しげな顔をしている密を、気にも留めず
邑輝はメガネを外すとタバコに火を点ける。

 邑輝「それにしても、まさかボウヤが死神になっていたとはな・・・。
確実に死んだものと思っていたのに。」

突然、自分の事を知っている口ぶりの邑輝は口端でニヤリと嗤う。

 密「何っ?」

 邑輝「ボウヤが都筑さんと歩いている所を見かけた時は驚いたよ。」

密の表情は更に疑いの眼差しを強める。

 邑輝「忘れたのか?3年前に会っただろう?
・・・死体の眠る桜の下で。
今日と同じ血のように赤い満月の夜にな・・・・・・」

(・・・こいつオレと会った事があるのか?)

密は3年前と言われても全く思い出せない。
思い出せないというよりは、記憶にも無いしやはり会った事など無い。

 密「いったい何のことだ!」

密は邑輝の遠回しな物言いと、自分は全く覚えがない事を
「忘れた」と言われイライラして声を荒げる。

邑輝はいたって冷静に答えた。

 邑輝「ふふっ。まだ暗示が生きているらしいな。
――――よかろう。思い出させてやるよ。
3年前の君と私の官能的な出会いをね。」


パチンっと邑輝が指を鳴らすと、密の頭の中に反響するかのように響いた。

反響が止むと、記憶が嘘のように甦ってくる。

そうだ・・・。あの夜は寝つけなくてフラフラと出た。
緋色の月が闇を真昼のように照らしていて・・・・・・
気がつくと階段があって、見あげると桜の樹が・・・

そして・・・・
そして――――

真っ白なコートに身を包んだ長身の男が立っていた。
髪も白っぽい銀髪で・・・・・肌も服も全てが真白。

だけど―――足元だけは真っ赤だった。
その男の手に掴まれている湿った「何か」。
ポタポタと滴る赤い液体と、転がる肘から下だけの腕・・・・
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