甘味屋さんと鈴

□第18話
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将来の夢は最強の忍者。
里の忍者学校に通う生徒ならではの意見だが、それではあまりにもつまらない、と鈴は思った。




忍者としてはまだまだ未熟ではあるものの、ありきたり過ぎるこの夢に彼女はどうも賛同することが出来ないのだ。




「雪乃と鈴はもう決まった?」




言いながらふたりの間にいるアキは、まだ白紙である鈴の用紙を手に取ったままため息をついた。




「……将来の夢って言われても…忍者しか無いじゃん」




「んもーばかねー。忍者のなかにも職業はあるのよ」




アキは机から身を乗り出したまま説明する。




潜入を主とする様々な任務を忠実に遂行する任務部隊、一般人と里を守る防人部隊、同盟を結んだ里という里に物資を運ぶ流通部隊。




いずれも中級忍者以上でないとなれない職業であり、さらに暗殺部隊は里長の試験を受けなければなれないのだという。




「…へー…」




相変わらず興味のなさそうな声を出すのはもちろん鈴で、返された用紙にそれを書くこともしなかった。
どうやらアキの説明は鈴が望んだものとは違ったらしく、またしても物思いにふけってしまった彼女にアキは今度は雪乃に問いかける。




すると、彼女はどことなく恥ずかしそうにしながら用紙を渡し、なかば不安げに視線をあちこちに泳がせた。




「…雪乃ったら、かわいー夢ね。私、お花って大好きよ」




言いながらアキは、自分の隣にいる鈴にもそれを見せた。
眠たげな彼女の瞳に飛び込んできたものは、『お花屋さん』の文字。




なるほど、雪乃らしい夢だ。
思って鈴は、花屋を経営する彼女を思い浮かべて呟いた。




「…雪乃なら本当になれそう」




「でしょー!?似合ってるわよねー」




そう言ってアキは、きょとんとしている雪乃に笑顔を向けた。




確かに雪乃は花が好きだ。
くの一になるための授業で花の名前を真っ先に覚えようとしたのは雪乃だったし、花のように可憐ではかないのも雪乃だ。




強いて言うならば、唯李よりも。




「なれるわけがねーだろ。余所者雪乃が」




アキにつられて微笑む雪乃に、水を差すような声が遮った。
振り返ってみればそこには見慣れない歳上の三人組が、どことなく挑発的にこちらを睨みつけている。




「大体ねぇ、わたし達忍者は里の道具なんだよ」




右端のひとりが雪乃に指を突きつける。
アキはそれに怯える彼女を守るように立ちはだかり、鈴の知らない三人組と睨み合いを始めた。




しかし、やはりふたりだけでは分が悪く、三人組の真ん中にいたひとりが静かに口を開いた。




「アキ、雪乃…特にあんた達みたいな余所者は前線に駆り出されて真っ先にいなくなるの」




生まれの違いってことだけでね。




それを聞いた瞬間鈴は、考えるよりも先に手に取った鉛筆を素早く投げていた。
鉛筆は平行な線を描きながらアキの脇をすり抜け、三人組のひとりの腕すれすれに横切ってから壁に突き刺さる。




しばしの沈黙の後、夢を諦めきった失意の瞳が鈴をとらえた。




「さすがね鈴…でも、あんたみたいな優秀な一族であっても、落ちこぼれじゃ同じ末路を辿るのよ」




「…じゃあ」




鈴は振り向き、声がした方に耳を傾ける。




「鈴よりも落ちこぼれなおめーらはどうなるんだろうな」




やる気のない、自分よりも少し低い声が、三人組の図星を突いた。
アキの瞳は輝き、雪乃は驚いたまま動けないでいる。




鈴を水鏡に映したようにそっくりな彼はにやりと微笑み、隣に並ぶ。
あまり好戦的とはいえない裕が、人の喧嘩に首を突っ込むなんてめずらしいことだった。




「そらよ、鈴!!」




「りょーかいっ」




鈴は裕から受け取った文房具をクナイの替わりにして投げ、その間に彼は素早く印を組む。




「風遁・粉塵壁!!」




裕の放った忍術である煙幕が教室中を包み込んだ。
あちこちで生徒の悲鳴や戸惑う声が聞こえ、そのなかには先生の叱るような声もあった。




「…ずらかれっ」




何も無い、真っ白な視界のなかで鈴はアキと雪乃の腕を掴み、裕と共に教室を脱出する。
行き先はおそらく学校の屋上だろう、息のあったふたりの行動に、アキは思わず呟いた。





さすが双子。
(言ってることも全部同じだなんてすごいわ!)(…本当に息ぴったり…)(…まあね…)(…まあな…)





続く

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