甘味屋さんと鈴

□第13話
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お隣の乾季の里からやって来たという白河柚木は、相変わらずゲンにべったりだった。
彼女はゲンのもうひとりの幼馴染みであり、彼と相思相愛でもあったリンとは常に喧嘩をしていたのだという。




ところが、忍者に余儀なくなってしまったゲンとリンは戦争というものを経験し、結果、リンはいなくなってしまった。




悲しみに暮れる暇も無く戦争は終結し、平和になった今、乾季の里に移り住んだ白河の一族にゲンは縁談を持ち込まれているのだが─────……。




「ハヤテ…私、もう2年も待ったのよ」




柚木は淋しそうに瞳を伏せながら言った。




「…同い年だからすぐに結婚できるなんて思って無かったけど…でも、実際はもっと待っていたわ」




鈴がいない甘味屋のなかで、ゲンは黙って聞いている。




許嫁など、柚木が勝手に言っていることに過ぎない。
そもそもゲンは、結婚すること自体承諾していないのだ。




「ねぇ、ハヤテ…一緒に幸せになりましょ?」




ハヤテが欲しいもの、私が全部叶えてあげる。
言いながら柚木は彼に迫り、甘い息の通うゲンの唇に触れようとした。




「…お言葉ですが…姫様、」




ゲンはふい、と顔を反らし、なおかつ柚木との距離をとった。
そうしていつものように遠くを見つめ、口を開く。




「……私は忍の身…いつ命を落とすか分からない職業についている以上、はやくに家庭を持つわけにはいかないのです」




もっともらしい彼の意見に、柚木はため息をついた。
これを聞くのは一体何度目になるのだろう。




自分はいつだってゲンを想ってきたのに、彼はいつだって知らん顔で。




「…それと…私はもうハヤテではありません」




追い討ちをかけるように、ゲンは静かに言った。




思い出される穏やかな日々に、その名を呼ぶリンと柚木。
ハヤテという名は、とっくの昔に捨ててきたはずだった。




「…鈴って子のせいなの?」




柚木はいつになく落ち込んだように肩を落とし、ため息交じりに呟いた。




「あの子、リンにそっくりだもの…まるで生き写しだわ」




彼のなかでくすぶっていた気持ちをさらりと言ってのける柚木に焦りの表情が見てとれた。




確かに鈴とリンはそっくりだ。
生き写し、というよりも、生まれ変わりなのかも知れないと思わなかったことも無く、ゲンはただ静かに息をついた。




「…姫様、私はこれで失礼します」




言いながら彼はつむじ風のように早々と去っていく。
もう随分前から名前を呼んではくれないゲンに、彼女は心なしか淋しさを覚えていた。




(…いなくなってからでさえ邪魔をするのね…リン…)




思って柚木は悔しさから震える唇をきゅ、と結び、近いはずの彼と並ぶ鈴に激しく嫉妬している自分がいることにようやく気づいた。





認めたくない。
(あんなおチビに負けてたまるものですか!!)(……っくしゅん!!)





続く

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