甘味屋さんと鈴
□第9話
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暗くてじめじめとした雨の季節にもようやく慣れたその頃、鈴達が通う学校では変化の術を勉強していた。
変化の術は敵陣地に潜入する際もっとも役に立つ基本忍術で、分身の術の次に難しいのだという。
…まぁ、鈴の場合は忍術そのものが難しいのだけど。
「さすがは波木一族、優秀ですね」
クラスのなかでいち早く術を修得したのは兄の裕で、その飲み込みの早さからますます注目を集めていた。
なかには彼を天才だと言ってはやし立てるものもいる。
確かに裕は、同じ5歳児にしては天才的だ。
しかし、彼はそれを鼻にかけることは無く、むしろみんな出来ることだからと言ってすぐに眠りについてしまった。
焦ったり赤くなったりしない辺り、裕は心の底からそう思っているのだろう。
自分とは違う天才的な兄を見て、鈴はこっそりと笑みをこぼした。
一方彼女はと言うと、一応変化は出来ているもののまったく似ておらず、その失敗をアキと雪乃のふたりによって笑い飛ばされていた。
術の見本となるヒヨリ先生が、とんでもなくブサイクだったり太っていたりするのだ。
…これが笑わずにいられるだろうか。
「あはははは!!ヒヨリ先生が太ってるー!!超いい気味ー!!」
「うふふ…だ、だめだよアキちゃん笑っちゃ…!!」
「そういう雪乃だって笑ってるじゃない!!鈴、アンタってサイコーね!!」
どうやらアキは担任のヒヨリ先生が気に入らないらしく、鈴の失敗した変化を見てかなり喜んでいた。
雪乃もアキの笑い声につられて笑っているし、鈴も鈴でそれが嬉しく思えた。
いつものように失敗してもむなしく思うことは無いのだ。
失敗したら笑い飛ばす、これはとてもいい方法だった。
「…三人ともいい加減になさい!!」
「きゃーっ!!ホンモノが怒ったー!!」
…その後、鈴は変化の手本となっていた担任のヒヨリ先生にこっぴどく叱られる羽目になった。
その内容と言ったらどうして真面目にやらないのだとか、どうして兄のように出来ないのだとか、鈴が気にしているようなことばっかりで。
(…せんせーだったら怒ったりしないのにな…)
思って鈴は、ただ頭ごなしに叱り続ける彼女にため息をつくことしか出来なかった。
いーじゃん別に。
(出来ないんだからしょーがないじゃん…)(いいえ!!私はもっと痩せています!!)(…あ、そっち?)
続く
あれっいつもより短い?