甘味屋さんと鈴

□第7話
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ざあざあと降り続く雨のなか、校舎の下で鈴はぼんやりとしたまま空を見上げていた。
そのどんよりとした空気は相変わらずで、勝手に傘を持っていった兄の裕に彼女は大きなため息をついた。




いくら女の子に追いかけられているからといって先に帰ることは無いだろう。
取り残された自分は一体どうやって帰ればいいのだ。




思って鈴は、何故か女の子に好かれる天才的な兄を今だけ嫌いになった。




(……しょーがない、走って帰るか……)




すぐに家のなかに入れば風邪を引いたりはしないだろう。
思いながら彼女は冷たい雨のなかを踏み出そうとした。




しかし。




「…傘…私も…無くて……アキちゃんも居なくて……」




可愛らしい外見とは裏腹に、なんとも内気なクラスメイトの萩雪乃に泣きつかれ、鈴はその場から動けなくなってしまった。
忍者とはいえ5歳、大人びた鈴とは違う雪乃はまだまだ不安なところが多いのだろう。




聞けば彼女はいつも一緒にいる相楽アキを待っているらしく、ひとりでは怖いから鈴に声をかけたのだという。
そんな彼女を放っておくわけにもいかず、鈴は自分も泣きたくなるような気持ちでアキが来るのを待つことにした。




(……相楽アキがねぇ……)




これはまた面倒な人物が関わってきたもんだ、とため息をつくのは鈴。
相楽アキといえば忍者にしては稀に見る姉御肌で、雪乃や鈴はもちろん誰とでも対等に話すことが出来る女の子だ。




それに、何ごとにも積極的な彼女は恋愛においても積極的だから、裕に想いを寄せているアキが彼を追いかけるのは当たり前のことだろう。




もちろん、裕や鈴にとってはかなり厄介な人物でもある。




「んーもう、裕くんたら恥ずかしがりなんだから!!」




「あ、アキちゃん!!」




言いながら戻ってくる相楽アキに瞳を輝かせる雪乃。
どうやら彼女はまたしても裕に逃げられてしまったらしい。




アキは鈴を見るなり八つ当たりしてきたが、それもあまり気にはならなかった。




何にせよこれでやっと帰れるのだ。
鈴がそう思った矢先、何かと洞察力のいいアキに傘を持っていないことを見抜かれてしまった。




「んーもう、ふたりともドジなんだから!!」




そう言ってアキは、ひとまわり大きな傘に入れてくれた。
3人で入るのには少々無理があったが、それもなかなかおもしろいものがあり、ひとりで帰るよりは断然いいと思った。




それに、今まで見かけで判断していたアキも雪乃も見かけだけでは無かったのだ。
初めて感じるこの雰囲気に、鈴はこっそりと笑みをこぼした。





たまにはいいかな。
(こーいうのも悪くない…)(でしょでしょ!!今日からあんたはあたしらの友達ね!!)(……鈴ちゃん、よ、よろしくね……)(……おう)





続く

友達出来た(*´ω`*)

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