甘味屋さんと鈴

□第6話
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ところ構わず緑が芽吹き、いよいよ雨の季節に移る時、鈴は家の縁側で昼寝中だった。
しかし、先ほどから将棋の駒を進める音が響いているというのに、彼女は微動だにしない。




鈴の眠りは深く、それも相当なもので、多分ちょっとやそっとのことで起きたりはしないだろう。
例えそれが、よく通る父親の声であっても。




「はっはっは!!王手!!」




「うげっ!!」




ぱちん、と打たれた駒に、兄の裕はめずらしく顔色を変える。
父親譲りの頭脳はまだまだ本人には敵わないらしく、彼は後頭部に手をやりながら不満をあらわにした。




「これで俺の60勝目だな!!」




「ちげーよまだ59勝目だ」




情けながらも自分の敗戦数は覚えているらしい。
能天気に笑う父親の京に、ぶすっとしながら裕は答えた。




武闘派だという妹に対し、頭脳派である兄はもちろん忍術を得意としている。
ふたりは双子だからこそ、お互いに無いものを持っているのかも知れない。




「…ぎゃーぎゃー騒いでんじゃないよ!!」




どこからともなく飛んできた声に、今度は京が顔色を変えた。
襖(ふすま)の向こう側から現れたのは、何とも気の強そうな女性が立っていたのである。




「うげっ!!かーちゃん!!」




姿を見るなり逃げ出そうとする京の首根っこをひっつかみ、世にも恐ろしい笑顔を見せる女性は、呼ばれた名前の通り裕と鈴の母である舞だった。




「まったく…鈴が寝ているんだからもう少し小さな声で喋ったらどうなんだい!!」




「し、しかし…舞、」




キミの声のほうが大きいから、と言おうとして、京は思わず口をつぐんだ。
彼女の鋭い瞳に睨まれると、たちまち何も言えなくなるのが双子の父親なのだ。




その見慣れた光景の情けなさといったら、まるで蛇に睨まれた蛙のようにしか見えない。




鈴は相変わらず目を覚まさないし、京はまたしてもどこかへ逃げ出そうとして捕まった。
舞の気性の荒らさによって生み出された体術は、少なからず鈴に受け継がれているらしい。




思って裕は、捕まった父親の断末魔に耳を塞ぎながらため息をついた。





休日だもんな。
(…仕方がねぇか……)(待ちな!!水遁・水連岩!!)(ぎゃーっ!!)(……Zzz……)




続く

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