甘味屋さんと鈴

□第5話
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しとしとと雨がそぼ降る暗いなか、鈴は忍者の在り方について勉強した。




…とは言っても、ゲンによって里を何周したか分からなくなるほど走ったおかげでほとんど聞いてはいなかったのだけど。




「…まったく、鈴さんは毎度毎度居眠りして…!!」




ヒステリック気味な先生の声で、彼女は一瞬だけ目を開けた。




先生の話によると、忍者には下級、中級、上級という階級があり、学校に通う者はまだまだ足下にも及ばないらしい。
下級忍者になるには卒業することが第一で、なかでもくの一は少しでも一般人に紛れることが大事だという。




「鈴さん!!そんなことでは立派なくの一にはなれませんよ!!」




(………わたしは……女になんてならないもん………)




思って鈴は、もう一度目を閉じて眠り始めた。




****




降っていた雨はすっかり上がり、雲の合間から太陽の光が差し込む午後、鈴はゲンと一緒に修行に励んでいた。
しかし、彼女の忍術の下手さを知ったゲンは、必然的に術を教える立場となってしまう。




分身の術を教える度に足手まといを増やす鈴と、呆れながらもツッコミを入れるゲン。
そんなふたりがやっていることはもはや修行というより、遊んでいるようにしか見えない。




(……これはまた……相当な時間がかかりそうですね……)




自らが生み出したもうひとりの自分にがっくりとしている鈴を見て、彼はげんなりとしながらそう思った。




「…あーもう!!分身って一体なんなのさ!!」




何度やっても正常な自分を生み出すことが出来ない彼女はついに頭を抱え込んでしまう。
思いきりやり過ぎたせいか、合わせた両手が真っ赤になっていた。




「…分身とはもうひとりの自分を生み出すことです……」




「分かってるよ、そんなの!!」




年齢のわりには落ちついている鈴が、いつになくイライラした様子で彼を睨みつけた。
分かっていることを指摘されて怒るということは、彼女も見かけ通りにまだまだ子どもなのだろう。




大体自分は体術派であって、忍術は専門外なのだ。
双子ではあるが、兄の裕が体術を嫌うように、鈴もまた忍術を嫌っているのである。




(…これが…かの有名な三大名の末裔とは……)




体術ばかりが秀でている彼女を見て、ゲンは困ったように唸った。




きっと、鈴には兄弟がいて、何かしら劣等感を抱いているに違いない───……ゲンはそう思った。




(ですが…もう、コツを掴みかけている……)




彼の助言も手伝い、少し休憩したこともあったせいか、今度はちゃんとした自分と目が合った。
それはすぐに消えてしまったが、彼女はきょとんとしたまま振り返る。




……えぇ、間違いなく貴女の分身でした。
まるでそう言っているかのように嬉しそうなゲンは、嬉しさのあまりに駆け寄って来た鈴を受け止める。




(まぁ…腐っても波木一族ってところでしょうか……)




めずらしく口元を緩ませていたゲンがそう思った瞬間だった。
先ほどよりも体重をかけてきた鈴が、いよいよ限界をうったえてきたのだ。




「…やれやれ…まさか限界が近づくまで私に言わないとは思いませんでした」




ひょい、という音と共に、彼女の目線が高くなった。
鈴はもうひとりの彼に抱き上げられたかと思うと、分身を使った本人に肩車をされていたのである。




西日を背に受けながら歩き始めるゲンに、彼女はいつものやる気の無い声で尋ねた。




「…せんせーの階級ってどこ?」




「……私ですか……私は一応中級です……」




それがどうかしましたか?
いつもの表情で逆に尋ねる彼は、どことなく嬉しさが込み上げてくるのを感じた。




きっと、彼女が無意識の内に自分を『先生』と呼んだからだろう。




「……せんせー強そうだから上級忍者かと思った」




「……おだてても奢ってはあげませんよ……」




そう、ふたりが向かった先はいつもの甘味屋で。
奢ってもらおうという下心をあっさりと見破られた鈴は、不満そうに唸ることしか出来なかった。





ちぇっ。
(…あれ、本当だったんですか…)(……カマかけやがった……)





続く

たまには子どもらしく(*´ω`*)

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