甘味屋さんと鈴
□第3話
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桜の花も散り始め、いよいよ緑が芽吹く時、もうひとりの自分が誕生した。
いわゆる分身の術成功と言うやつで、喜ぶ生徒も大半いるのだが…………。
「…これ、何?」
「………分身。」
白くてだらーんと伸びたもの、これはどうやらもうひとりの鈴であるらしい。
見るからに失敗を意味するもうひとりの自分に、先生は呆れたようにため息をついた。
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ぼんやりとしながら空を眺める鈴は、今日もまた甘味屋に来ていた。
しかし、手に持った三色だんごを口にすることは無く、ただ足をふらふらとさせているだけで。
その三色だんごは、ひょい、という音と共に消えた。
「…あ…」
三色だんごの長男(しかもピンク)は、またしても体調不良な彼によって食べられてしまった。
むぐむぐと頬を動かすその彼は心なしか嬉しそうにも見える。
「…だんごドロボウ…」
「やれやれ…ドロボウですか…」
貴女も人聞きが悪いですね。
言いながら彼は疲れたように腰を下ろした。
隣には膨れっ面の鈴。
彼女にしたらこの男の人はだんごを3つも食べてったドロボウでしか無いのだ。
鈴は大きなため息をついた。
それにしても、今日はなんて不運なのだろう。
かれこれ1ヶ月は練習していた分身の術は失敗するし、他の生徒には笑われるし、挙げ句の果てにはだんごドロボウと再会してしまうなんて。
「…分かりましたよ。今日は私の奢りです」
口では無く態度で責める鈴に耐え兼ねたのか、彼も大きなため息をつきながらそう言った。
「…えー…いいよ別に…」
「…人の好意は素直に受け取りなさい」
かわいくない子どもですね。
彼は三白眼で鈴を睨みつけた。
目の下にクマがあるのは相変わらずで、それはなかなか迫力があるものだが、何故か鈴には通用しなかった。
「…ありがと、だんごドロボウ」
「…月代ゲンです。だんごドロボウではありません」
出逢ってから初めて名前を明かした月代ゲンは、鈴の頭を撫でながらそう言った。
ふーん。
(…こうして私はだんごドロボウと仲良くなった…)(…失敬な…)
続く
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