甘味屋さんと鈴

□第3話
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桜の花も散り始め、いよいよ緑が芽吹く時、もうひとりの自分が誕生した。
いわゆる分身の術成功と言うやつで、喜ぶ生徒も大半いるのだが…………。




「…これ、何?」




「………分身。」




白くてだらーんと伸びたもの、これはどうやらもうひとりの鈴であるらしい。
見るからに失敗を意味するもうひとりの自分に、先生は呆れたようにため息をついた。




****




ぼんやりとしながら空を眺める鈴は、今日もまた甘味屋に来ていた。
しかし、手に持った三色だんごを口にすることは無く、ただ足をふらふらとさせているだけで。




その三色だんごは、ひょい、という音と共に消えた。




「…あ…」




三色だんごの長男(しかもピンク)は、またしても体調不良な彼によって食べられてしまった。
むぐむぐと頬を動かすその彼は心なしか嬉しそうにも見える。




「…だんごドロボウ…」




「やれやれ…ドロボウですか…」




貴女も人聞きが悪いですね。
言いながら彼は疲れたように腰を下ろした。




隣には膨れっ面の鈴。
彼女にしたらこの男の人はだんごを3つも食べてったドロボウでしか無いのだ。




鈴は大きなため息をついた。




それにしても、今日はなんて不運なのだろう。
かれこれ1ヶ月は練習していた分身の術は失敗するし、他の生徒には笑われるし、挙げ句の果てにはだんごドロボウと再会してしまうなんて。




「…分かりましたよ。今日は私の奢りです」




口では無く態度で責める鈴に耐え兼ねたのか、彼も大きなため息をつきながらそう言った。




「…えー…いいよ別に…」




「…人の好意は素直に受け取りなさい」




かわいくない子どもですね。
彼は三白眼で鈴を睨みつけた。
目の下にクマがあるのは相変わらずで、それはなかなか迫力があるものだが、何故か鈴には通用しなかった。




「…ありがと、だんごドロボウ」




「…月代ゲンです。だんごドロボウではありません」




出逢ってから初めて名前を明かした月代ゲンは、鈴の頭を撫でながらそう言った。





ふーん。
(…こうして私はだんごドロボウと仲良くなった…)(…失敬な…)





続く

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