甘味屋さんと鈴
□第2話
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入学してから1週間。
まだまだ初々しい1年生達が教わった最初の忍術は、分身の術だった。
印を組んで手を合わせれば出来る…というわけではもちろん無く。
(…かったるい…)
そう思いながら授業中に居眠りを始める鈴は、やっぱり強者だ。
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(…だんご…美味しい…)
授業中に居眠りをしていた鈴はこっぴどく叱られ、人より遅い放課後になってしまったのだが、彼女はまったく気にしていないようだった。
むぐむぐと必死に口を動かす鈴は、まるでドングリを食すリスのようで。
「お客さんかわいいから、1本おまけしちゃう!!」
「………どもっス、」
甘いものが何よりも大好きな彼女のかわいらしさに、得をすることもしばしば。
どうやらここの甘味屋は、鈴の行きつけのお店になりそうだ。
それに外で食べることも出来るし、季節も感じられる。
(………春、か……)
お茶を飲んでいる最中に、ふわりと風が吹いた。
どこからか桜の花びらが飛んできて、どことなく心地よい。
年齢の割に大人びている彼女は季節を楽しむことを知っている。
それに、この里は四季の里だから、もちろん春夏秋冬繰り返しているわけで。
「……1本いただきますよ」
「……っス……え?」
何気なく鈴の思考を遮り、さりげなく会話に入ってきた男の人は。
ものすごく体調の悪そうな人だった……………!!
(うわ…体調悪そう…)
彼女の隣でみたらしだんごを頬張っている彼をちらりと盗み見て、鈴はこっそりとそう思った。
背中に剣を背負っているあたり、彼も忍者なのだろう。
しかし、顔色はまったく良くはなく、目の下にはクマが出来ており、だんごの串を掴む手にはかすり傷がちらほら見える。
…夜通し戦っていたのだろうか。
「…貴女だけですよ、」
「…は、」
何が、と言おうとして、鈴は口をつぐんだ。
いかにも体調不良そうなその彼が、何故か可笑しそうに笑ったのだ。
「私を見ても体調悪そうと言って心配しない人です」
くすくす、くすくす。
一体何が可笑しいのだろう。
彼は絶えず笑い続けた。
(つーか初対面で体調悪そうとか言えるかよ…)
彼女がそんなことを思っているとはつゆ知らず。
体調不良のその彼は、食べ終えただんごの串を空いているお皿に戻し、ごちそうさまと小さな声でそう言った。
「では、私はこれで…」
さっと手を合わせた瞬間に、どこからか煙が吹き出して彼を包み込んだ。
一瞬何が起きたのか分からなくて、鈴は思わず目を瞑る。
「…………………。」
もう一度目を開けてみても、そこにはただ呆然としている彼女がいるだけだった。
だんごドロボウ。
(ちゃっかり2本も食べてった…)
続く
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