マ王の書庫

□寝顔
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「陛下、この書類にサイン……を……」
コンラートは執務室の扉を開けて、固まった。
いつもはグウェンダルの文句が飛びかってるが、今日は一段と静かだった。
部屋を見渡すと、グウェンダルも有利も座ってペンを持ったまま、ピクリともしない。
怪訝に思いながら、コンラートは近づいた。グウェンダルの顔を覗き込んで、コンラートは目を丸くした。

珍しい……

グウェンダルの頭が、こっくりこっくりと船を漕いでいる。
コンラートが近づいても気がつかないのだから、結構眠り込んでいるようだ。
有利の方を見ても、同じように船を漕いでいた。
二人を見比べて、コンラートは噴出しそうになった。
二人の揺れる頭のリズムがシンクロしている。
口元を手で覆いながら、コンラートはしばらくその光景を眺めていた。
窓から風が入り、肌に馴染むような心地の良い空気が部屋に入ってくる。遠くから鳥の鳴く声も聞こえてくる。
執務室の時間の流れが、とてもゆっくりに感じられた。
ともすれば、自分も一緒に寝てしまいそうだと思い、コンラートは、有利の机にそっと、書類を置いた。

「ぅ……ん……」

頭を上げているのがつらくなったのか、有利はとうとう机に突っ伏すようにして、眠り始めた。
幸せそうに、頬を緩ませている寝顔を見て、コンラートは微笑んだ。

こんな無防備な姿も、自分にとってはかけがえのないものだ。
なにか問題が起これば、すぐ一人で抱え込んでしまう、主。
こんな風に、彼が幸せそうに眠ることが出来るなら、自分はどんなことでもしてみせよう。
彼を守るなら、自分の命さえも掛けられる。

コンラートは有利を起こさないように、そっと彼の頬をなでた。

「良い夢を、有利」



                   了

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