Alice〜探し物は愛ですか?〜
□憂さぎとの出会い
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やっと、見つけた…
やっぱり、俺たちは離れられない運命なんだ。
双子の俺たちには――
距離なんて、関係ないんだよ。
憂さぎとの出会い
香編
10月9日
俺、春日 香は幼なじみである男に有無も言わさず無理やり連れ去られ…ある場所へやって来た。
そこは、中華街などがある神奈川の中心部“横浜”
わざわざ、鎌倉から横浜まで出てきたのだ。
そう、出てきたのだから――
「中華街とか…赤レンガ倉庫とか有名所に行くだろう、普通。なのになんで、ここまで来て教会なんかに足を運ばなくちゃいけないんだよ?……それも男2人で」
「ん、なんか言った…香?」
「なんでもない。ただの独り言だから気にすんな」
『そう…』と、言ってバザーの品々に夢中になってるのが幼なじみでもあり、ここまで連れ去ってきた張本人でもある――浅野 安里。
突如家に押し掛け、目的地も告げず…駅に着いた途端――『横浜でやってる教会のバザーに行くから』と淡々と言いやがる始末。
(何が悲しくて男2人で教会のバザーなんかに来なくちゃいけないんだよ……。)
コイツとは、小・中・高と一緒だけど――何を考えてるのか未だに分からない。
(普通だったら、女と来るだろ…こういうのはさ)
「香、向こう見てくるから…」
「あぁ、分かった。あとで、メールか電話よろしく」
「了解」
(まぁ、俺も安里も彼女居ないしな…)
そうしてアイツの、後ろ姿を見送ってから俺も少しぶらぶらと行動開始した。
「それにしても…」
教会のバザーにしては意外なくらいに賑わいを見せている。
女の子はキャーキャー言ってるし、人は多いし…やたらと高校生っぽいのも多い。
(最近のバザーは変わってるんだな…)
ふと足を止め見渡せば安売されてる商品たちは新たな主を求め陳列され、出店に並ぶたくさんの食べ物たちは、訪れる者達を夢中にさせている。
「本当に、賑やかだ――っと!!」
『おーい、行くぞ!!』
『あっ、待ってよ!…キャっ!!!』
『大丈夫!?…はい、一緒に手繋いで行こ?』
『うん!!』
彼の側で幼い子供たちが、可愛い一場面を見せていた。
そんな光景を見ていると昔の記憶たちが彼の中で甦ってくる。
(あの時は安里とアイツと俺とで、はしゃぎまくって大目玉くらったんだよな)
彼らが、走って行った方を彼は目を細めながら見つめていた。
まるで、あの時の自分を重ね合わせるように。
あの時は、楽しかった…いつも、側にはアイツも居て――。
それなのに――――
「どうしてなんだろうな…」
どこで、違くなってしまったんだろうか。
(ずっと、一緒だと思ってたのは)
「俺だけ…か」
まるで自分を嘲け笑う様に周囲は楽しそうな笑い声で溢れ返っている。そんな思考を振り払うようにまたゆっくりと歩き始めたとき、それは突然やってきた。
「ちょっーと、ゴメン!!突然で悪いんだけど、もしかして…K倉高の春日君?」
「え、あぁ…そうだけ――」
「写真1枚撮らせて!」
「へ?」
「この通り、お願い!!!」
顔の前で、手を合わせ懇願する彼女は……なにか言っても取り合ってくれなそうな雰囲気を醸し出していた。
むしろ、この子は誰だ?どうして写真?
そんな疑問たちは、俺の口から出ることなく押し留まり――
「ありがとう!!助かっちゃったよ」
「あ、あぁ…どういたしまして」
いつの間にか終わった撮影。久々に、フラッシュを浴びたせいか目が多少チカチカしてる。
というか、この写真どうするんだ…?
「あっ!ゴメンねー。私、星奏学院2年の天羽菜美」
「はぁ…」
軽く自己紹介したその子を見ればブロンドにウェーブがかった髪、そして両耳に輝くピアス。
かなりテンションは高いが、明朗快活とは彼女のようなことを指すのだろう。
「えーっと、私の顔になにか付いてる?」
「へ?」
どうやら彼女にずっと視線を留めていたらしく、こちらに不思議そうな視線を投げかけていた。
「いや…なんでもないよ。それで、その写真どうするんだ?撮ったんだから、教えてくれてもいいだろ?」
「あー、そのことなんだけど学校新聞に、春日君の写真載せてもいいかな?」
「またなんで、俺の写真なんて載せるんだ?」
「実は―――」
彼女の話によれば、彼女が通う学校の生徒が演奏会(のようなもの)をするから、その記事と他に話題性を持たせようと…その会場に居たイケメンを載せようと考えているらしい。
「まぁ、それならいいよ別に」
軽いノリで承諾すれば、彼女は少しビックリしたような顔をしたがすぐに晴れやかな笑顔へと戻った。
「本当!!助かったよ。…こんなすぐに、承諾してくれるなんて火原先輩みたいだわ」
「火原…?」
「あ、ううん…こっちの話し。もし、これで浅野君も居てくれたらラッキーなんだけどなぁ」
彼女が、無意識にぽつりと呟いた言葉は当然――
「安里なら居るよ、今は別行動してるけ…ど‥」
俺にも、聞こえてたんだがこの状況での、この回答は間違えたかもしれないと思っても後の祭りだった。
多少、雰囲気が変わった彼女に、気付かれないように少しばかし逃げる準備もとい、後退っていけば…手をがしりと掴まれあっさり逃亡は失敗した。
「2人の写真も撮らせてくれない!!」
「あ、あぁ」
(安里…なんかゴメン)
伝わらないだろうが心の中で彼に謝罪しとこう。とりあえず、この握られている手は離れないであろうことを確信した今、早々に腹を括った方が身の為だと悟った。
「春日君達、これから何処か行くの?」
「…特に、何処にも」
ほとんど見て回ったからあとは安里からの連絡を待つだけだったし、この後はなにも考えていなかった。
「そしたら、写真撮る前に演奏聴いていってよ!!私の友達と後輩が出るからさ!」
あぁ、さっき話してた…演奏会かと納得しながら疲れたから座れるなら、それもいいかと感じそれを了解した。
「いいよ。この後なら、なにもないから」
「本当!!なら、これパンフレット。今日、演奏するメンバーが書いてあるから」
「ありがとう。それじゃ、あとで行くから…手を――」
離してくれないかと頼もうとした時に、ふと彼女は不思議そうに呟いた。
「さっきから、ずっと思ってたんだけど…なんか…やっぱり、そっくりなんだよねー。春日君って」
「えっ?」
彼女なんだけど、とパンフレットに指差した先に俺は言葉を失った。
「日野…香穂…子」
「あれ?もしかして、日野ちゃんと知り合い?」
「あ、あぁ…まぁね」
こんな所に居たんだ。
「やっと……見つけた」
「どうかしたの?春日君」
「いいや。本当にありがとう、天羽さん。ちゃんと聞きに行くから、絶対に」
「え…。う、うん」
彼女と別れてから携帯を取り出した…する事は一つだけ。プルルと電子音が続いた時。
「もしもし、安里か」
『香、どうかした?』
「まだ、終わらないかと思って」
『もう、ほとんど終わったから…もう少ししたらそっちに行く』
「そしたら、教会の前に来てくれよ」
『………分かった』
「それじゃ、後でな」
今度こそ―――
絶対に逃がさない。
アリスがうさぎを見つけて追い掛けたように。
俺も、
追いかけるよ、ずっと。
―終―