D R E A M

□ あおぞら
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「さぼり教師、何してるんだ」

午前授業の日の放課後だった。なんとなしに屋上に来て、あまりにも綺麗な空に見とれていたら、後ろから声をかけられた。
思った通り、綾芽くんだ。

「今は休憩時間だもん、さぼりじゃありません」

「すげー間抜けな顔してたぞ」

「うるさいなあ、空見てたの」

屋上では風が強めに吹いて、綾芽くんの前髪を揺らしていた。私は、いつもの生意気な言葉を聞いて、なんとなく安心した。綾芽くんが一番綾芽くんらしいときだと思う。

「見て、今日の空、雲が1つもないんだよ」

「空ね…」

綾芽くんは半ば呆れたように笑いを含んで言った。風に吹かれながら空を見上がる横顔がやけにサマになっているのが憎らしい。

「ねえ、すごくきれいでしょ?」

「ああ、お前の方がきれいだ」

「……なにそれ」

さっきまで子供らしく意地悪やってたくせに、突然こんなことを言うところがまた生意気だと思う。私の反応を見て笑った綾芽くんの笑顔は、かわいい高校生なのに。



「雲が無い空は、吸い込まれそうで、嫌いだな」

私の横に来て座りながら、さっき私がしていたみたいに空を見上げると、綾芽くんは言った。

「周りは薄い青で、真ん中にいくほど深い色になっていくだろ」

「うん」

もう一度、空を見上げてみる。ぽっかりと開いた空は、綾芽くんの言う通り、真ん中にいくほどぼんやり濃くなっていく。なんだか本当に、吸い込まれてしまいそうだ。

「あの一番深い青色、綾芽くんの髪の色みたいだね」

「髪?」

「深くて綺麗なブルー」

それこそ

吸い込まれそうな

「じゃあ、お前は太陽だな」

綾芽くんは、肩にかかっていた私の髪を少しすくった。

「太陽?」

「この色」

「私のは普通だよ」

「今日は陽に透けて太陽みたいだ」

手に取った私の髪に綾芽くんが口元を近付ける。匂いをかいだのか、口付けたのか、そのどちらもしたのかもしれない。一瞬で体が中から熱くなる。

「…綾芽くん」

「落ち着く」

「え?」

「この香り」

屋上にびゅうと風が吹いた。ほてった頬にちょうどよくて、乱れた髪の毛が顔を隠してくれるのも都合がよかった。

「でも私、太陽みたいに輝けないなぁ……、なんて」

「……。俺は空みたいに広くないよ」

「そんなことないよ」

「いいよ。アンタが太陽なら空は俺だ」

何も言えなくなって、髪を押さえながらただ綾芽くんの顔を見た。さっきまでの不敵な表情とは少し変わって、優しい顔になっていた。この顔、どこで見たんだっけ。たしか、静音ちゃんといるときだ。

「太陽と月は出会えないけど、空ならずっと一緒だろ」

「…うん…そうだね」

よく比喩的に話す今日の綾芽くんが、なんだか可笑しかった。

「何笑ってるんだ」

「…ううん、私頑張って太陽みたいになるね」

「…別に頑張らなくていいよ、そこにいればいいんだから同じことだろ」

「ん?」

「暑すぎても困るからな。ずっと俺の真ん中で笑ってなよ、先生」

少しだけ休んですぐ戻ろうとしていたことも忘れて、綾芽くんの肩にもたれながら空を見ていた。風が吹く度に、雲の代わりに髪の毛がひらひら揺れた。

綾芽くんの肩と、歯の浮くようなきざなセリフが、今だけは心地いい。





fin


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