頂き物

□てぃーみさん宅から頂いてきた3万打記念素敵小説
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短い夏祭り
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 真夏の来訪者


 窓から燦々と降り注ぐ陽射しと暑気が季節は夏、真っ只中であることを教えてくれる。

 主が帰って来たばかりの部屋には空調が効いているはずもなく、閉め切られた室内はまさに蒸し風呂状態だ。部屋に入った綱吉は急いで窓を開けると、床に座り込んだ。額や首筋から滲み出る汗は綱吉の茶色い髪を濡らし、小さな雫となって滴り落ちる。


「あっつううぅぅ〜……」


 死にそうな表情から死にそうな声しか出てこない。母親に頼まれてお使いに出たのはいいが、予想以上の暑さに後悔を覚える。綱吉は着ているTシャツの裾をバタバタと扇いで、少しでも涼を求める。腹部や臍が見えようともこの部屋には綱吉一人しかいないのだから、行儀が良かろうが悪かろうがそんなものは関係ない。

 そう、関係ないはずなのだが……


「そんな破廉恥な真似はお止めなさい! 誰が見ているか分からないでしょう」


 先ほど、綱吉が開けた窓から突然入ってきた人物。藍色の髪に赤と青のオッドアイをした青年、六道骸であった。


「今はお前の相手なんかしている余裕はない。帰れ」


 本来ならば、窓から侵入してきたことに対して文句を言うべきなのだがこの男、骸は沢田家への出入りは綱吉の部屋である二階の窓からしかしない。つまり、綱吉にとって窓からの侵入に対して突っ込むなど今更なことなのだ。


「ちょっと! せっかく訪ねてきたというのに、いきなり帰れとはあんまりじゃないですか?」

「ただでさえ暑いっていうのに、暑苦しいヤツの相手なんかしてられるか。お前、この時期なって学ランはさすがにないだろ? いい加減、脱げよ」


 真夏日が続くこの季節になっても骸は未だに学ランを着ていた。本人が気にならないのなら構わないのかもしれないが、綱吉でなくとも見ているこっちが暑くなるというものだ。


「綱吉君の口からそんな言葉が聞けるとは…それは誘って「いるわけないだろ! お前の思考回路はどうなってるんだ!?」


 普段なら『いつものこと』と軽く流せる骸との電波な会話も、こう暑いとイライラが募ってくる。綱吉の機嫌は目に見えるように悪化していく一方だ。そんな綱吉の様子を察知したからかどうかは分からないが、骸によって話が一変される。


「今日はそんなことを言いに来たのではありません。明日、僕と夏祭りに行きますよ!」


 骸の口から突然出た『夏祭り』という言葉に綱吉は毎年、夏に並盛神社で行われる祭りのことを言っているのだろうか。そういえば、母さんもそんなこと言っていた気がする……と曖昧な記憶を辿る。


「ていうか、何で『行きますよ!』って断定なんだよ?」

「もちろん決定事項だからです。そして、綱吉君は明日、これを着て来て下さい!」


 そう言って骸がおもむろに背後から取り出して見せたのは浴衣だった。鮮やかな橙色の布地に色とりどりの花模様が綺麗にあしらわれたそれは女物の浴衣。そして次の瞬間、ブチッという不穏な音が……元々、気は長い方ではない上、この暑さである。綱吉がキレたとしても致し方ない。


「……骸」

「いかがですか? この浴衣! 綱吉君にぴったりだと思うのですが」

「俺、今すごい暑いんだ。だからここでお前に利用価値を見出してやるよ」

「どういうことでしょうか?」

「氷漬けになって俺を涼ませてくれ」


 綱吉の表情は清々しいくらいの笑顔だが、目は一切、笑っていなかった。綱吉が技を出すまでもなく、骸が凍り付いたのは気のせいなどではないだろう。謝り続けた骸はその後、綱吉を怒らせたときの保険にと用意していた男物の浴衣を押し付け、明日の待ち合わせ場所と時間を一方的に告げると再び窓から帰って行った。怒らせると分かっているのなら始めから余計なことをしなければいいものを、学習能力があるようでない骸である。

 綱吉の手に渡されたのは深緑の布地に縦縞の入った至ってシンプルな浴衣だった。正真正銘、男物である。しかし、それ以前に綱吉は祭りに行くかどうかさえ決めていない。安堵とも呆れともつかない溜息を吐くと、綺麗に折り畳まれたその浴衣をベッドの上に放り投げたのだった。

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