頂き物

□T-Mieさんから頂いた素敵相互記念小説
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 カツカツと廊下に響く靴音は、ある目的地を目指しひたすらに進んでいく。

 後ろで一括りにされた藍色の長い髪と後頭部の逆立った髪はリズミカルに揺れている。ボンゴレ10代目霧の守護者、骸の姿だった。そして、骸は突き当たりにある扉の前で立ち止まるとノックもせず、乱暴に開けて叫んだ。


「綱吉君! 僕と結婚して下さいっ!!」

「あぁー、無理無理。そんなことよりお前、頼んだ仕事はどうしたんだよ?」

「そんなことって……! 綱吉君が結婚してくれたら仕事に行きます」


 部屋の主はペンや印鑑を忙しそうに動かしていた。ボンゴレボスである綱吉の執務室で繰り広げられる突飛な会話。というよりは一方的な会話であるが、これは綱吉と骸の日常風景であった。


「じゃあ、他の人に頼むからいいよ」

「っ!! 綱吉君…せめて僕の顔を見て話して頂けませんか?」


 骸の言葉に綱吉は面倒臭そうに溜息を吐き、忙しく動かしていたペンを置くと顔を上げ正面の視線と合わせる。


「だからもう帰っていいよ」

「Σっ!! 帰っていいって…他に言うことはないんですか!? まだ僕は質問に答えてもらっていませんよ」

「質問…? お前何か言ったっけ?」

「ふざけないで下さい! 僕と結婚して下さいって毎日言っているじゃないですか!!!」


 そう、骸のこの求愛行動は毎日行われていた。晴れの日も雨の日も欠かさず綱吉の元へやって来ては同じことを言う。

 最初の頃こそ綱吉も骸の言動に驚き、顔を赤らめて動揺していたが……このやり取り、実はかれこれ半年近く続いているのだ。さすがの綱吉もこの頃には骸の言葉なんて右から左である。

「お前とは結婚なんかしないって前から言ってるじゃん。そっちこそ人の話聞けよ」

「綱吉君に拒否権はありません!」

「はぁ……」


 強引な骸の扱いにほとほと手を焼いていた。滅多に怒ったりしない綱吉でもそろそろ、堪忍袋の緒が限界だろう。むしろここまでよく耐えたものである。

 そして、綱吉の口唇が緩やかに弧を描く。


「なぁ、骸。お前…いい加減にしないと霧の守護者から降ろすよ」


 綱吉は静かに笑顔で言い放った。

 足元が崩れ落ちていくような感覚に襲われた骸は、自分の身体を支えるのに精一杯で考えが上手く纏まらない。


(今……何て言ったのですか? オロス、おろす……守護者から降ろす!?)


 震えそうになる身体を何とか抑え込むが、掌で覆われた顔は驚きとショックを隠せずに歪んでいる。それでも美形は美形なのだが、ここにいる2人にとってそんなことはさして問題ではない。

 そして、事は起こった……


「もういいですっ!!! 過去に行って、14歳の君と結婚してやりますよ! 今更、後悔しても遅いんですからね!」


 骸の逆ギレである。零れそうになる涙を堪え、綱吉に背を向けると脱兎のごとく走り出す。袖で目元を拭いながら廊下を駆ける姿……に痛ましさを感じるなんてことはないが、別の意味の痛さなら感じる。だって大の男が泣きながら走っているのだから。


「……ドアくらい閉めてけよ」


 骸が怒ろうとも、綱吉は綱吉だった。



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