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□これが自慢の、
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「弟、もらうぞ」

ザワザワといろいろな会話が聞こえる大学内の食堂で、一番人気のチキン南蛮丼と格闘していたら(敷かれたキャベツが邪魔なんだよな)、唐突に正面に座った友人が呟いた。
突然のことに当然ながらオレは固まって、オレはご飯とキャベツとチキン南蛮を完璧な配分で乗せた箸を、こともあろうに机に落としてしまった。
言った張本人は、並べておかれたうどんとかつ丼をすでに平らげていて、そのオレの無様な姿を平然と見ていた。

「もう一度言うか?」
「いや、いい。いいよ。何言ってんだ、お前みたいな男にうちの可愛い弟やれるかよ」

やっと覚醒してきた頭を一度ふるり、と振って、正面に座る不機嫌な顔を対峙した。

「お前さ、いい加減弟離れしてくれよ・・・」

聞こえてますけど、しっかり。
オレはテーブルの下で、向かいの男の足を思い切り、踏んづけた。




■□■□■


「エースくん!昨日は晩御飯ごちそうさま。弟くん、大丈夫だった?」

風になびく髪を押さえながら、その女は笑った。
学内でもトップクラスの美女だ。その笑顔に男なら誰だって悪い気はしないだろう。
案の定、中庭を歩く人がポケ、と口をあけてその笑みを見ていた。
だけどオレはその笑顔にも負けない笑顔を顔に貼り付けて。

「あぁ、大丈夫だったよ。…でも、君、もういいや。ルフィのカテキョ、辞めてもらえるかな?」

極寒の言葉を突きつけた。
そうこの女は、どこからか聞きつけてきたオレの可愛い弟の家庭教師を無償で引き受ける、と名乗り出てきてくれた女だ。
しかし昨日の夕食後の勉強タイムに、その可愛い弟をベッドに組み敷いているところを見てしまい、早々にお引取り頂いたのだが。
それでもめげないのが、肉食女子の魅力なのか。昨日の今日だというのに、恥ずかしげもなくオレに話しかける女がわずらわしくて、オレはゴホ、と咳払いをした。

「オレ、勉強以外のこともルフィに教えろって言ったっけ?大きなお世話だよ。オレに取り入ろうとした結果なのか、弟に興味が湧いたのかは知らないけど、君、好みじゃないから」

マロンブラウンの巻き髪も、甘ったるい香水も、そのヌードベージュの爪も、全て好みじゃない。

途端に優しげだった顔を引きつらせた女は、ヒステリックに何かを叫びながら、ドスドスと効果音が聞こえてきそうな足取りで去っていった。
あのヒール、折れてしまえばいいのに。
そう呟いたら、左からマルコの腕にゴツリ、と頭を叩かれた。

「おめぇは、女の子にあんなこと言うもんじゃないよぃ」
「だってよ、頑張ってるか?ってドア開けたら、あの女がルフィにまたがってんだぜ?意味わかんねぇよ!」
「はぁ…お前もそのブラコン治せば、女なんて入れ食いだろうに。残念だねぃ」
「いいよ別に。今は女はいい」


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