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□非常にのん気で・・・
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「……」

赤しか、見えない。目の前には赤い赤い血。その中にチラチラと見える黒い、もの。黒いものはざくざくと音を立てて私のお父さんや、お母さん、兄弟、仲間、友達を赤く染めていく。あぁ、そうか。お父さんたちはあの黒い「もの」に殺されているのね。ざくざくという音がしなくなって私はやっとその黒いものがなんだか分かった。黒い洋服を着た人、だった。嬉しそうにお父さん、いやお母さん?もう誰だか判別がつかないほどぐしゃぐしゃになった誰かをナイフでつつく。あの黒い人は私に気づいていないのだろうか。
3mぐらい離れたところに突っ立っている私を。

「ねぇ、」
「ん?」

声をかけてもその人はこっちを見ずに返事をした。まだナイフは誰かをつつき続けている。

「貴方、だれ?」
「ん?王子だよ」

王子?王子ってあの、白雪姫とかにでてくる王子?それにしては大分雰囲気が違うんだけど。白馬もないし黒い洋服だし(ティアラは付けてるけど)なんだか王子っぽくないなぁ…。そのあと一言も喋らないでいると逆にその人に尋ねられた。

「あんたは?」
「…そのつついてるモノの知り合い、かな」

誰だかわからないから親子とも家族ともいえないので曖昧に知り合いと答えた。するとその自称王子はふーんと言ってつつくのを止めた。

「嫌じゃないの?」
「……何が?」

そう答えたらその自称王子は驚いた表情をした。(長い前髪の所為で良くわからないから違うかもしれないけれど)するとさらに深い笑みを浮かべた。

「あんたさ、面白いヤツだね」
「変人とは、よく言われるわ」

しししっとその自称王子は笑って(笑ったというのかしら、アレは)私のほうに手を差し出した。不思議に思って首をかしげるとその差し出された手は私の体を軽々と抱き上げた。

「!」
「王子に抱っこしてもらえるとか、お前幸せだね」

コレが抱っこって言うのかしら、抱っこって言うのはもっと絵本で見たみたいなお姫様抱っこのこと、言うんじゃないの?これじゃ担いでるってほうが正しい表現だと思うわ。

「私をどこに連れてく気?」
「王子の家。お前幸せモンだね」
「…コレって誘拐って言うんじゃないの?」
「そんなの気にしないよ、だって俺王子だもん」

なんてむちゃくちゃないい様!王子だからって誘拐(犯罪)が許されるって言うの?そんな人に誘拐されるだなんて嫌!私は暴れてその自称王子から抜け出す。

「私は、行きたくないわ」
「王子に逆らう気?お前やっぱ面白いヤツだな」
「面白い…?」

そんなこと言われるなんておもい辺りがないのだけれど。そんな表情を見せると自称王子は気づいてなかったのかよ、とでも言いたそうな顔をした。

「だって普通仲間、ましてや家族が目の前で殺されてんだぜ?普通気が狂うとか泣き叫ぶとかするだろ?なのにお前はそんな態度微塵も見せなかった。だから面白そうだな、とおもって」
「…そう、」

そんなんで面白いとか思われちゃうのも意外だけれど。それならば貴方も面白いわね、って言ってやったら心底楽しそうに自称王子は笑った。



非常にのんきで優雅な誘拐
(似たもの同士だから誘拐したくなったのかもね)(誘拐にしては充分のんきな気がするわ)


タイトル/三日月の口

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