Ring-現代-
□第三話
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「さて…」
嵐のように飛び出していった萌を見送り、彼女が帰ってくるまでの間に何をしてしまおうか思案する。
とりあえずは、彼女のお気に入り…私の愛用していた物と同じ香りのする紅茶をいれ、一口口にしながら昨夜のことを思案する。
彼女の読んだ預言。
おそらくは私のことを指している預言。
……しかし、どこか辻褄が合わないように感じるのは気のせいだろうか。
私は、こちらに呼び出される前、ローレライと第七音素についての古文書を調べていた。
そこまでは、はっきりと覚えている。
だが、こちらに召喚された時のショックなのか…何を求めてソレを調べていたのか、記憶がすっぽりと抜けてしまっているのだ。
…私は、ルークの居場所を求めて…古文書を調べていたのか?
そう自らに問い掛けても、どこかしっくりこない事実に疑心は募る。
が、あの預言によれば、恐らくルークは何らかの理由でこちらの世界に存在している可能性が高い。
…預言が正しければ、二人のルークが。
そして、現状が上手く進めば彼を助けることに繋がると。
預言を捨てた私が、またしても預言に踊らされているようであまりいい気分ではないが…預言はあくまで、数ある選択肢のひとつ。
頭の片隅に置いて、利用できるときは利用すればいい。
未だ湯気の立つ紅茶を一口こくりと口にし、昨夜萌から取り上げた譜石を手に取りじっと見つめる。
確かに、この石からは第七音素が溢れ出ていることが感じられる。
問題は、何故こちらの世界の住人であるはずの萌が第七音素を使役し、預言を読み解くことが出来たかなのだ。
出会った当初は彼女に何ら疑問を抱かなかったが…昨日で明らかになった点がいくつかある。
この世界には音素が存在しない。
当然、この世界の生物、無機物にも音素は組み込まれていないはずなのだが、そんな空間に存在して尚音素反応を唯一…──萌からは感じたのだった。
私にとっては、音素が存在している事のほうが当たり前であり、音素の存在しない空間の異常さに本来ならすぐに気付いていたかもしれない。
が、こちらの世界で初めて出会った萌は、違和感の何ら感じられない存在…つまり、音素を体内に宿している存在だったのだ。
音素反応の感じられない沢山の物を目の当たりにしてようやく気付いた事実だった。
…そして、これらの事実はもう1つの可能性を示唆している。
萌は、オールドラントの住人かもしれない。
だとしたら、音素を使役し預言を読んだ事実も合点がいく。
元々、彼女は第七音素の素養を持った第七音素譜術士であった可能性も否定できない。
彼女も何らかの記憶障害を起こしているのか、あるいはこの世界の中でも特異な存在であるのか……
いずれにせよ、確かめる必要がある…
鎖の付いた譜石を首から下げ、そっと服の中にしまい込む。
一日この家でじっとしているよりも有意義だと感じた私は、萌の言い付けを胸に外に出ることにした。
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