Ring-現代-

□第一話
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「あああ!ジェイド、さん!」



「…何か?」

「あの…すみません、こっちの世界では…というか、私の国では、部屋に上がるときは靴を脱ぐんです」



土足で部屋に上がり込もうとする彼を慌てて制止すればこちらの常識を伝えてみせる。
私の話にあぁ、と息を洩らしほぼ服の一部である自身のロングブーツを見つめればジェイドは苦笑を洩らしながら


「大変失礼しました。
この歳になって、マナーを注意される日が来るなんて思ってもいませんでしたよ」

「ご、ごめんなさい、気づくの遅くて…」

「いえ、お気になさらず。まぁ、少々慣れないことにはなりそうですが…仕方ないでしょう」





玄関先に腰を掛けて長いブーツを脱ぐ彼を背後からじっと見つめる。
…あの服の構造…ずっと謎だったし。



しばらく見つめた後、ジェイドがここまで持ってきてくれた二つのコンビニ袋を手に取り、先に台所へと荷物を運ぶ。

1LDKの小さな私の部屋。
普通なら、人二人が住むには申し分のない広さではあると思うけど…



ブーツを脱いで室内に上がってきたジェイドは、リビングに足を踏み入れれば立ち止まり、再び様子を伺っているようだった。



「…モエ、これは一体何なのですか?」

お湯を沸かす準備をしてから、ジェイドの背後から彼の見つめる物を私も見つめ


「あぁ、ピアノです。楽器ですよ。
私、普段は学校で音楽を勉強してるんです」


すっと彼の脇を通り抜け、ピアノの前に座って鍵盤に手を置いてみる。
『ド』の音を人差し指一本で鳴らして再びジェイドに視線を移せば、彼もゆっくりとした足取りでこちらに向かってくる。


「"レィ"…音の概念も同じようですね」

「この世界でも色んな呼び方があります。
"ド"、"ハ"、"C"…」


ソ ド レ ファ ミ ソレ


ユリアの大譜歌の一節を弾いてみせればさすがのジェイドも目を丸くしたのがよくわかった。



「モエ…貴方は…」




そう名を呼び
怪訝な様子で私を鋭い視線で見つめるジェイドを、私は初めて怖いと感じた。


タイミングよく、お湯の沸く音が聞こえてきたのに気づけば、彼と視線を合わせないよう再びすっと横を通り抜け、キッチンへと向かう。



「座ってて、ください。
全部…お話しますから…」






お茶の準備をしながら、今だに鋭い視線を向けているジェイドに話し掛ける。
少し間が空いて、静かに『わかりました』と、心地の良い彼の低い声が耳に届けば、ジェイドは小さなスペースに置いてあるテーブルの前に腰を下ろしたようだった。





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