Ring-現代-

□第一話
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手早く、コンビニであらゆる物を買い集めた。
後で困らないよう思いつく限りの物全てを。



未だ夢なのか、現実なのか区別できないまま
両手に荷物を持って、走って彼を待機させた場所まで行けば


可笑しそうに笑みを浮かべた彼が、確かにそこにいたのだ。








Ring-第一話-









「ほぅ…これは、昇降機のようなものでしょうか?」



か弱い女性に、そんな荷物を持たせるわけにはいきませんよ、と
ジェイドは私が両手にぶらさげていたコンビニ袋を奪って手に持ってくれた。


そんなジェイドから、自宅のマンションのエレベーターを待っているときにふと投げ掛けられた疑問。
そう、文化も文明も異なるこの世界は彼の研究欲を刺激させるには十分のようで。

私のマンションまでの道中、先程のコンビニに始まりマンションの構造だとか自動ドアの仕組みだとかに興味津々な様子だった。



「そうですね、こっちではエレベーターって言うんですけど」

「えれべーたー…ですか。これも音素で動いているのでしょうか」

「あー…えっと、音素というか……電気です」

「でんき?」



ちーん、とエレベーターが到着した音と共に説明ベタな私の脳内でも同じ音が鳴った気がした。

ぶすぶすと音を上げてショート寸前の頭を捻りながらも先に彼を促しエレベーターに乗り込めば、自室のある階のボタンを押す。





「…んと…電気、は…さ、サンダーストーム?
あ、雷、わかりますか?」

「はい。分類的には第3…もしくは第6音素の類でしょうか。
それをエネルギー源に可動している、ということですか…
いやぁ、無事に帰れたらのんびりと研究してみたいものです。
こちらの世界のものは便利に効率よく出来ているものばかりですから」


ふむ、とエレベーターの階数を示す明かりに目をやりながらジェイドは応える。
…私が理工学系の勉強が出来ていれば、彼の知識欲を満たすだけの会話が出来たかと思うと残念さと同時に申し訳なさが込み上げてくる。



「…すみません、しっかり説明できなくて」

「そんなことはありませんよ?
こちらとあちらでは、仕組みや原理こそ異なるものの、生活観においては類似していることも多々あるようですし……聞いているところ、貴方はオールドラントの知識もあるようだ。
話の食い違いも起こりませんし、本当に助かりましたよ」



にこり、と。本音なのか建前なのかもわからないその笑みに、私は単純にもどきりとして思わず彼から目を逸らしてしまった。

私の隣の彼は、また何とも言えない笑みを浮かべていることだろう。

そんなことを考えている間にエレベーターが目的エリアに到着したことを知らせ、目の前の扉がスッと開いてみせる。

いくつもの部屋の扉が続く廊下を静かに歩いて、部屋の前まで来ればバッグをまさぐり鍵を取り出す。


「ここは…集合住宅のようなものなのですか?」

「そう、ですね。あんまり隣ご近所さんとの付き合いってないものですけど。

…どうぞ、狭いですけど」



鍵を開け、ドアノブに手を掛ければ若干ドキドキとした心境で玄関先の靴を揃え、部屋の電気を点ければ彼を招き入れようと声を掛けた。

周りをどこか警戒した様子で見回し、慎重に玄関まで入れば『失礼』とだけ洩らしブーツのまま部屋へと一歩踏み出すジェイドに私はハッとした。




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