小説
□After the nightmare
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ずいぶんと夜が更けた時間帯の外の空気は、春と言えどもまだまだ肌寒い
だがその寒さも、今の自分の心を落ち着かせるにはちょうどよかった
僕は部屋を出てすぐの渡り廊下に腰掛ける
そして、空に浮かぶ月をぼーっと眺めた
いつも変わることのない輝きを放つそれは、まるで自分を別世界へと誘うよう
先程までとも違う、また他の世界へと―…
「伊作、ここにいたのか」
ふいに聞こえた自分の名を呼ぶ声に、僕は振り向いた
地に足をつけたかのように、こちらへと意識が戻ってくる
「…留さん」
そこには留三郎が立っていた
今目が覚めたのだろう
切れ長の目が、さらに細められている
「あっ、ごめんね。起こしちゃった?」
きっと隙間風が原因なのかもしれない
そう考えてとりあえず先に詫びたが、本人は気にしていない様子で
「いや、いい」
とだけ呟いた
(留さんらしい…優しいなぁ)
普段は好戦的だのなんだのと言われている彼だけど、今みたいな一面もあったりする
それを最も実感しているであろうと思うのは、同室ゆえの特権だろう
なんてことを考えていると、自然と表情が穏やかになる
そんな僕の様子を不思議そうに見ていた留三郎だったけど、ゆっくり近づいて僕の横に腰掛けた
「それにしても、珍しいな」
「ん?何が?」
「お前がこんな夜中に起きてるなんてさ」
いつもだったら布団の中で丸まってるのによ
そう言って笑う留三郎に膨れっ面を見せるも、まんざら嫌だったわけでもない
彼とこうしているのは、僕のささやかな楽しみでもあったわけだし
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