小説

□遠く切ないこの思い
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自覚したところでどうするということもない
伝えるつもりなどない
この思いはずっと
自分の中に留めておくんだから―…


「七松先輩」

「おっ、滝!」

六年生の教室へと向かう途中、探していた相手を見つけ私は声をかけた

相手は私に気づくとこちらに近づいてくる

先輩のいつもの笑顔
それを見る度に私はいつもどこか安堵する

恋こがれる相手の笑顔ほど、見ていて幸せになれるものはないだろう

「どうしたんだ?
滝がこんなところまで来るなんて珍しいな」

「今度の予算委員会にむけた予算の見積もり、終わりました」

「おっ!もう出来たのか!?」

「はい」

手にしていた予算案を先輩に手渡す
受け取った先輩はすぐに目を通した

そんな先輩の姿に自然と目がいってしまう
自分のものとは違う、先輩の手、髪、目…
どれも思わず見入ってしまう


しばらくすると読み終えたのであろう先輩が顔を上げた
その先輩と目が合い、なんとなく気恥ずかしさを感じたため、僅かに視線を反らす

「すごいなー、完璧だ!
さっすが滝!頼りになるなぁ」

満面の笑みを浮かべた先輩は私の頭に手を置き、優しく撫でた

「私、滝が同じ委員会にいてくれてよかったよ」

がははは、と笑いながら先輩はそう言う

(あぁ…全くこの人は…)

あんなに無邪気な顔で、なんて残酷な事を言うんだろうか

その言葉が、私の求めるものとは違う意味で言ったんだろうということくらいはわかっている

わかっているからこそ…それはひどく切ない

言葉に含まれる真意の捉え方が違うだけで、私と先輩の間に見えない、けれども消えることのない壁が作られる
崩れることのないそれは、二人の間に確実な距離を作った

決して縮まることのない永遠の距離
その事実は私を更に困惑させ、迷わせる

けれど、だからと言って先輩を責めることはできない

そう、先輩は悪くない
これは私が勝手に抱いた思いなのだから…


私は、尚も楽しそうに頭を撫でる先輩の顔を見れずにいた
赤みを帯びた顔を先輩に見せるわけにはいかなかったから

顔を伏せたまま、せめてこの時間が過ぎなければいい
ずっとこのままで…

有り得ないことだとわかっていながらも
それでも強く願いながら、私は自分の掌を強く握りしめた



Fin..
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