小説
□素直じゃない
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「…っ、ごほっごほ…っ」
静かな部屋に咳の音が響く
もうかれこれ何度目であろうか
度重なる咳に、今度は喉までやられてしまいそうだ
ひどくけだるい体は、寝床から起き上がることすら許してはくれない
故に今日1日、私はほとんど動くことができなかった
(春だと思い、油断した結果がこれか…)
浅はかだった自分の考えに、もはやため息すら出てこない
いや、その行為に使う気力も沸かなかっただけなのかもしれないが…
「仙蔵、起きてるか?」
しばらくすると同室である男、文次郎が帰ってきた
やつのその手には小さな土鍋が1つ、盆に乗せられている
私のために持ってきてくれたのだろう
そう思うと、若干心が軽くなったような気がした
「おばちゃんに作ってもらってきたんだが…食えるか?」
「あっ、あぁ…」
正直かなりきつかったが、せっかく作ってもらったものを無駄にするわけにはいかない
体を起こし、目の前の食事に手をつけた
さすが食堂のおばちゃんと言ったところだ
お粥の塩加減も絶妙で、何の苦もなく食べることができた
その様子をじっ…と見る文次郎は気になったが…
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