小説

□素直じゃない
1ページ/2ページ

「…っ、ごほっごほ…っ」

静かな部屋に咳の音が響く
もうかれこれ何度目であろうか
度重なる咳に、今度は喉までやられてしまいそうだ

ひどくけだるい体は、寝床から起き上がることすら許してはくれない
故に今日1日、私はほとんど動くことができなかった

(春だと思い、油断した結果がこれか…)

浅はかだった自分の考えに、もはやため息すら出てこない
いや、その行為に使う気力も沸かなかっただけなのかもしれないが…


「仙蔵、起きてるか?」

しばらくすると同室である男、文次郎が帰ってきた
やつのその手には小さな土鍋が1つ、盆に乗せられている

私のために持ってきてくれたのだろう

そう思うと、若干心が軽くなったような気がした

「おばちゃんに作ってもらってきたんだが…食えるか?」

「あっ、あぁ…」

正直かなりきつかったが、せっかく作ってもらったものを無駄にするわけにはいかない

体を起こし、目の前の食事に手をつけた

さすが食堂のおばちゃんと言ったところだ
お粥の塩加減も絶妙で、何の苦もなく食べることができた

その様子をじっ…と見る文次郎は気になったが…

.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ