novel

□White Emmy Angel
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「…で、その“ほっぺた”は、どんな『痴話ゲンカ』の産物なんです?」

手を休める事もなく、モルゲンレーテの技術主任エリカ=シモンズが、仏頂面の横顔に可笑しそうに問い掛ける。

女性でなくても羨ましがるほど、元々肌が透き通るように白く、オーブの強い日差しでも殆ど焼ける気配がないのは、単に『プラント育ち』だから…というだけでなく、『コーディネーター』だからなのかもしれない。
その白い肌に「これでもか!」とばかり、ハッキリと浮き出た『赤い手の痕』―――
只でさえ、濃紺の色の濃い髪をしている所為か、言わずともながその『存在』を主張している。

「…別に…そんな大げさなことは…」
「大げさ、で『家出』までさせちゃった訳ですか?」
さも可笑しそうに、笑みを零すエリカが、そっとその脹れた頬に『保冷シート』を張ろうとしたが、次の瞬間―――
「―――っ! …ちょっと、そんな乱暴に掴まなくっても…」
「あ、その…す、すいません。…つい…」
「まぁ、黙って貼ろうとした私も悪いんだけど…。そんな“ほっぺた”じゃ目立ちますから、帰りまでこれでも貼っておけば、少しは目立たなくなるんじゃないかしら?」
「…すいません…お気遣いいただきまして…」

エリカから受け取った『保冷シート』を貼り、そのまま作業を続ける横顔を見、エリカも一呼吸漏らす。

(―――それだけ隙も見せない『反射神経』の持ち主が、どうして避けられなかったのかしらね…)

シートを貼ろうとした一瞬、まるで反射的に自己防衛でもするかのように、エリカの腕をいとも簡単に捕らえてしまった。

(…それだけ『隙』が見せられる『相手』―――ということなんでしょうけど…)

何の身よりもなく、頼る相手もいない。
それでも彼は自身で望んで戦後、この『モルゲンレーテ』に来た。
―――「自分の能力を活かせる場所だと思いまして…それに、父が行った償いを…俺自身の手で報いたいんです。」
そのハッキリとした翡翠の眼差しに、いとも簡単に金の瞳が真っ直ぐ受け止め、答えた。
―――「なに気負ってんだよ! お前がこの地球護ったんだぞ!
    もっと自信持てよ! …そりゃお前が復興手伝ってくれるっていうんなら、こっちは凄くありがたいことだけどさ!…いいのか? 本当に?」

彼―――アスランが、こうして『モルゲンレーテ』で、復興の助力
をしてくれることは、大きな力になっていると思う。

(…でも…)

エリカ―――いや、それだけではなく、ここ『オーブ』の者なら
アスランが此処に居る『理由』はそれだけでない事は、何となくだ
が…彼の様子から窺い知る事はできる。
彼の傍ら―――何時も誰にでも、裏表なく真っ直ぐに向ける金の瞳、
太陽のように明るく、快活な笑顔の『彼女』―――
その『彼女』が居る時の彼は、表情も、受け入れる空気も…全てに
おいて柔和になる。

(…只…問題なのは…)

エリカでなくても時々、気の毒に思う。
誰であろうその『彼女』が、『彼』の想いに、どこまで気付いている
のかと思うと。

「…また『通告』が入ったようです。」

無機質な声で告げるアスランに、エリカも我に返ってモニターを眺め
る。

<―――『白い天使』ノ「データ」ヲヨコセ―――サモナクバ貴国ノ明
日ノ平和ノ保障ハナイ―――>

「発信源はまだ解析できない…」
丁度見計らったかのように、レドニル=キサカ一佐が、声を掛けてき
た。

「『白い天使』…こんな脅迫めいた事をしても、もう此処にはそんなも
のはないことは、プラント=地球国家間の共同視察で判っているはずな
のに…」
苦々しくキサカが言葉を漏らす。

ふと、気付いてエリカがアスランに問い掛ける。
「…もしかして、その“ほっぺた”の原因は『これ』ですか?」
つられてキサカもアスランに向き直る。

「…いえ…これとは全く関係は…」

言いよどむアスランの横顔が更に赤くなった気がして、エリカは不思
議そうにアスランの顔を覗き込んだ。

*        *        *

「…で、今回の『痴話ゲンカ』の原因は何なの?」
半ばウンザリしたように、キラがカガリに尋ねた。

「べ、別に『痴話ゲンカ』って! 何でアスランって―――」
「そうでなきゃ、わざわざ此処まで黙って『家出』なんてしてこないで
しょ?」
ムキになって答えるカガリに、静かにキラが追い討ちをかけた。
「〜〜〜〜〜〜っ」
キラから視線をそらし、肩を震わせて言葉に詰まるカガリに、柔らか
な声がかかる。
「あらあら…キラ、そんなにお声をあげなくても…」
何時も通りの柔和な微笑みの少女―――ラクス=クライン
誰もがその微笑みと、歌声に癒される。
ここは『オーブ』より少し離れた『マルキオ導師』の家
―――通称『祈りの庭』

戦後心の傷の癒えないキラは、ラクスの導きの元、ここで静養を続け
ていた。

尤もラクスがキラを此処に連れて来たのは、それだけの経緯ではない。

『ザフト』の最高機密『N・ジャマーキャンセラー』を搭載した『フ
リーダム』を駈った事。
つまり『核の秘密』を知る人間として―――彼が他者から狙われる危
険性も十二分に考えられる。

戦争が『停戦』したとはいえ、未だ各地では小さな争いは消し去る事
は出来ない。
キラの身柄を保護する上でも、オーブとも比較的近く、連合・プラン
トからも信用を集める、此処マルキオ導師の家は絶好の『隠れ家』でもある。

「…だって…あいつ…あんな事…」
「何? 聴こえないよ? カガリ。」
ボソボソと顔を赤らめながら呟くカガリに、キラが更に声を掛けると、
意を決したように、ギュッと目を瞑りながら、両手を握り締め、真っ赤
になってカガリは怒鳴った。

「アイツ私のドレス、黙って持ってったんだぞ!?」

「…はぁ?」
カガリの怒鳴り声にキョトンと顔を合わせるキラとラクス。
同時に、マルキオ導師の孤児たちも大声に顔を覗かせた。
「…黙って、って…何で『アスランが持っていった』って判ったの?」
キラからの尤もな質問に、カガリが視線を逸らしながら答える。
「…はじめは…『一番気に入っているドレス、着てみてくれないか?』
って言われたんだけど…」
「それなら別に着てあげれば良かったじゃない。」
「だけど! お前だって知ってるだろ? 私がああいう鬱陶しいカッ
コ嫌いなのを!」
 
―――確かに。
    バナディーヤでも影に隠れるように、見せるのを嫌がる仕草をしていたり、オーブに付いた時も、散々乳母の手を煩わせていたっけ…。

「…『嫌だ!』ってハッキリ言ってやったんだ。アイツに…そうしたら
次の日無くなってたんだ! 侍女に聞いたら「アスランが持って行った
って…」
ワナワナと震えながら、カガリはとどめ(!?)の一言を放った。

「アイツ、『女装』の趣味あったのか!?」

「…へ…?」
「あらあら…初めて存じ上げましたわ…」
一瞬、空気が固まったように感じられたが、直ぐに和んだのは―――
キラの笑い。
「あらあら…如何なされましたの?」
ラクスが嬉しそうに声を掛ける。
「うん…幼年学校の時の学芸会、思い出しちゃって…」
クスクス笑いながらキラは続ける。
「僕達のクラスで『シンデレラ』演ったんだけどね。当日主役の女の子
が熱だしちゃって…台詞全部覚えてたのって、アスランだけだったから、
アスランが本番『シンデレラ』の役やったんだけど、凄く似合っててさ。」
「まぁ! それは私も是非見たかったですわv」

「もういいっ!!」
(こっちは真剣に悩んでんのに、何和やかになってんだよ!)

笑いの続く二人を置いて、カガリは一人外に出て行った。



・・・to be Continued.
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