novel

□The most difficult problem in this world.
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Q1.天才の憂鬱?



<コツコツコツ・・・>
迷う隙もなく、フィリップボードの上にマジックペンが踊る。
その表情は端正な顔立ちというだけではなく、あまりに涼しげなその横顔に、観覧席からは感嘆のため息が漏れた。
『―――さぁ、先ほどから他校の選手達は全く手が動かない!それぞれが苦悶の表情の中、たった一校、プラントの誇る名門進学校『ZAFT高校』のザラ君だけが余裕で回答を書き込んでいる・・・さぁ、答えが出たようだ! では、『ZAFT高校』、答えをどうぞ!』
「「m=r×2θ÷Log35/287」。」
淡々とした口調には、全く疑いの由もない。
濃紺の髪を少しかき上げた仕草に、観覧席に居た少女達から「キャァーー!!」と歓声が上がる。
そして彼の両脇には、何故か苦虫を噛み潰したような表情で睨むプラチナブロンドと、それをなだめる小麦色の肌の青年が二人。

『・・・・・・正解! やはり強い!名門『ZAFT高校』地区予選突破!全国大会出場決定!!』

「ワァァァーーーーーッ!!」
会場が割れんばかりの拍手と歓声で包まれる。

「―――流石は『ZAFT高校』。チームリーダーのザラ君。名だたる名門校を押さえ、圧倒的な強さでの全国大会進出ですが、何か勝因はありましたでしょうか?」
「・・・いえ・・・それぞれがそれぞれの得意分野で力を出した結果ですから・・・」
忌憚のない司会者のインタビューに、おざなりの愛想とこれまた忌憚のない嫌味のない返答をし、アスランはマイクを避けた。
「この強さなら、全国大会での勝利も間違いないでしょう!!見てください!他校の生徒達からも、「俺達の分も頼む!」とばかり、熱い握手を交わしております!」
まさしく「純粋・熱血」の代名詞のような青春時代を髣髴させる、今まで戦ってきたライバル校達が、アスラン達に涙とともに握手を求めてくる。
「頼むぞ!」
「君なら勝利間違いなしだ!ザラ君!」

『では熱き戦いとなりました地方予選『プラント』大会はこれで終了します。皆!全国で待ってるぜ!!』
司会者まで熱血青春といわんばかりの熱い声援とともに、会場のアプリリウス体育館は割れんばかりの拍手に包まれた。

***

「はいよ、お疲れさん♪」
ステージ裏でディアッカが上機嫌で缶コーヒーをアスランに投げた。
「ありがとう。」
淡々と返事をし、プルトップを開け、ゆっくりとアスランは少々甘めなコーヒーを飲むと、後ろからディアッカとは対照的に、ブツブツと不満を撒き散らしながらイザークが一気にコーヒーを飲み干した。
「なーにイライラしてんだよ。アスランのお陰で予選勝ち抜け出来たんだからいーじゃんか。」
気楽にたしなめるディアッカに、今度はイザークが噛み付かんばかりに話し出した。
「何が「よかった」だ!チームリーダーはこの俺だぞ!!ちゃんと俺の名前で、次が貴様で、最後がオマケのアスランにしたんだぞ!何になんでコイツが「リーダー」とか言われてちやほやされるんだ!俺が作ったチームだぞ!!なのにアイツらときたら―――!!」
「はいはい。アスランに声をかけたのは俺だけど、この大会自体に出場書類出したのはお前だったからな。確かに「いいだしっぺ」のお前がリーダーだ。」
「おぃ、ディアッカ!貴様俺が「言いだしっぺ」だからリーダーだと!? コイツは確かに最後のあの訳のわからん難問を解いて見せたが、その前の考古学史学問題なら、俺が全部答えただろうが!!いらん雑学ばっかりのお前と貢献度は比較に並んだろうが!!」
「あー、わかったわかった・・・ともかく今日は帰ろうぜ。次は一週間後に全国大会待ってるんだからさ。その準備も必要だろ?」
「フン!貴様に言われんでも解かっているわっ!俺がリーダーなんだから、俺が仕切るといっているのがわからんのか!!」

二人のやり取りを少しばかりのため息とともに見送ったアスランは、ふとコーヒー缶を弄びながら反芻する。

***

元々アスランはテレビ番組というものに興味がなく、ただ淡々と将来に向けて勉学に励む日々を送っていた。
ところがほんの一ヶ月前、同じクラスのディアッカに「クイズ大会に出場してみないか?」と誘われたのが事の顛末の始まりだった。
「なぁ、頼むよアスラン! このクイズ番組って「3人一組」にならないと出場できないんだよ。イザークは他のヤツ捜すって言っているけど、このクイズ番組の問題って、すげー難解の理数問題がごまんと出題されるんだよ。イザークは文系だし、俺はどっちかというと雑学派だし。お前みたいに全国模擬試験で理数一位、他の教科だって5本の指に入るお前となら、絶対全国出場・・・いや、優勝だって間違いないって!!だから・・・な!」
正直人前で何かをする、ということはアスランは苦手だった。
勉強も試験も、周りに流されず、一人の世界に篭れるからこそ、あの時間と空間が好きなのだ。だからわざわざ人前で知識をひけらかすことなど、アスランには考えも及ばないことだった。
「・・・悪いが他をあたってくれないか?俺はこういうのは好きじゃない・・・。」
だが、ディアッカは頑として譲らなかった。
「頼むよ!俺達3年生は最後の高校生活なんだぜ!? 何の思い出もなく終わってお前それでいいわけ? それにさ、この大会に出られれば、もしかしたら女の子たちと知り合いになれるかもしれないしさ!なんせ『ZAFT高校』はバリバリの男子校だろ?こういうクイズ番組にゃ、必ず可愛い女子高生が出てくるのが決まりだからさ♪」
・・・なるほど。クイズ番組にかこつけて、女の子目当てとは、いかにもディアッカらしい。
でも、ならば余計に辞退しないと・・・
「すまない、ディアッカ。この夏は模試もあるし、遊んではいられ―――」
「今回の全国大会の開催地は『オーブ』、しかもお前が一度覗いてみたいって言ったことのある、技術者なら誰でも憧れる大企業『モルゲンレーテ』のお抱え大学『オノゴロ大学』が会場なんだぜ!!」
「―――!」
翡翠の瞳が自然と見開く―――
理数系・・・しかも技術分野のある大学に進学することが、アスランの目標だった。それにプラントでも有数の企業と技術提携している『モルゲンレーテ社』は理工系に将来の天職を見据えているものなら誰でも一度は憧れる企業だ。もちろんそれはアスランも例外ではない。
(そうか・・・一度でいいから『モルゲンレーテ社』を見てみたかった。あの大企業は産業スパイや外資系への配慮が厳しく、社員の家族でもかなり大変なセキュリティを通らないと外からですら見えないというし・・・。それが間近で見られるならこれはチャンスだな・・・)
「・・・わかった。力になれるか分からないが協力するよ。」
アスランの言葉にディアッカが歓喜で三顧の礼を送った。
「サンキューアスラン!!これでテレビに出られ―――いや、南国の海で女の子とバカンス―――じゃなく、クイズ大会に出て、難しい難問クリアして、俺達の実力が試せるぜ!じゃぁイザークに言ってくるから!」
そういうが早いか、ディアッカはあっという間に走り去った。

***
 
そして一ヵ月後、第一次予選として、参加校150校に対し、まずはペーパークイズによって上位5校に絞り、さらにそこから勝ち抜けクイズによって代表一校が選出される、というかなりハードなシステムだった。


まず午前中のペーパークイズで出場者3人の合計点数が高い順から5校が選ばれるが、そのテストの前の段階で、出場校の名前とメンバーが発表されるのだが、その張り出し表を見て、殆どの生徒が愕然とした。
「みろよ『ZAFT』高校・・・あの『アスラン・ザラ』が出場するらしいぜ。」
「ねぇ、『アスラン・ザラ』っていつも全国模擬試験のトップに名前が出ている『アスラン・ザラ』でしょ?」
「何だよ〜ただでさえ『ZAFT』って偏差値73のプラント一の進学校だっていうのに、その更にTOPが来たんじゃ俺達、勝ち目無いぜ〜・・・」

そんな呟きがアスランの耳にも入ったが、アスランは冷静に回答した。
そして二次予選通過の際、司会者によって成績が発表されたのだが
『『知力・体力・時の運』、全てを味方に勝ち抜ける高校はどこだ!? ・・・さて、地区予選『プラント』大会、先ずは一次予選勝ち抜け第一位は・・・『ZAFT高校』!総計276点!おめでとう!!』
ペーパークイズは全員共通の問題で一斉に始められた。その内容はとてもただの高校生へのクイズ問題とは思えないほど高レベルだった。
だからこそ、この点数を聞いたものは、誰もが驚愕するほどだった。
『しかもこの中で、『ザラ君』は何と、パーフェクト!全問正解で通過!!』
「「「っ!!」」」
誰もがその瞬間息を呑んだ。
他校の生徒はおろか、イザークやディアッカまでもが息を呑んだのは言うまでもあるまい。

***

「全国大会は、あと一週間後・・・か・・・」

ホンの気まぐれで参加した全国高校生クイズ選手権大会。

その先に待ち受ける出来事が何なのか。
それは聡明なアスランでさえも、考えも及ばないことだった。


・・・to be continued.
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