novel

□君の隣に・・・
2ページ/4ページ

港から程近い『軍令部』
かつてそこにいた自分・・・

何故、あそこに居つづけられなかったのだろう・・・?
あそこでは…『彼女』を助けることが出来ないと思っていたからだ。

何の力も無く―――ただ、そばに居るだけで・・・

『彼女の苦悩』に、俺は手を差し伸べることさえ出来なかった。

そんな自分が―――本当に嫌だったんだ・・・。
足が自然と『内閣府』に向かう。
そこはまだ、窓ガラスから零れだす光が幾つも残っていた。

―――『彼女』も・・・あの中だろうか・・・

明日、『アークエンジェル』は出港する。

その前に、もう一度だけ見たかった。

その姿を、眼に焼き付けておきたくて―――
 だが、ふと、アスランはその中に『彼女』が居ないような気がした。

何故か、心の中でざわめく感覚―――

自然と返した踵は、私室のあった『軍令部』へと向かっていた。

何故か足が速まる・・・

気が付くと、アスランは軍令部の私室の間際まで、息を切らすように走っていた。

そこには―――

ドアの前に、寄りかかるようにして宙を見上げる金髪の少女。

思わず―――夢ではないか?―――とその眼を疑う。

だが、『彼女』はゆっくりとアスランに振り向くと、儚げな笑顔で呟いた。
「…何だか…お前が此処に来るような気がしてさ…馬鹿だよな…私…。お前がここに来る、なんて根拠、どこにも無いのに…。」

「…カガリ…」

アスランは呼吸を整えると、何処からともなく湧き上がる感情を抑えながら、穏やかに言った。
「俺も…何故だかわからないが…君が此処に居るような気がした…」

その翡翠の瞳を覗き込むと、金の瞳は可笑しそうに…だが、何処となく嬉しそうに言った。

「じゃぁ、私たち、2人とも馬鹿だな。」
「…そうだな…」

微笑をこぼしながら、アスランは答えると、まだ持っていたカードキーと、暗証番号を打ち込み、カガリを部屋に招いた。

アスランの殆どの私物は『アークエンジェル』に既に積み込まれている。
ただ、ベッドとソファーだけがポツンと残された、殺伐とした空間。
でも、そこにカガリがいる―――それだけで、アスランにとっては安らかな空間に変わっていった。

「…明日、早いんだろ? 『アークエンジェル』に戻っていなくていいのか?」
ソファーに腰掛けながら言うカガリの言葉に、アスランが逆に問い掛ける。
「じゃあ、カガリは『アスハ邸』に戻らなくていいのか?」
キョトンと見つめる金の瞳…。だが、次の瞬間、可笑しそうに笑いながら、カガリは言った。
「大丈夫だって! 私が戻らないときは、大体内閣府の執務室で、こもりきりになってるときだから。」
「そうか。…そうだったな…。」

自分がプラントに旅立つ前も、カガリは時々そんなことがあった。
今は、それが遥か遠い日の出来事のような気がした。

「…俺は…君に謝らなきゃいけないと思っていた…。」
アスランはカガリに並ぶようにして座りながら、ポツリと呟いた。

「…何でお前が謝らなきゃならないんだよ。」
カガリの言葉に、アスランは一つ大きく呼吸しながら、語りはじめた。

「・・・俺は・・・君の傍にいながら、何も君にしてやれることが出来なかった・・・ただ1人、『オーブの理念』を守ろうと必死になっている君に・・・だから『力』が欲しかった・・・力を発揮出来ることが出来れば、君の助けに・・・『オーブ』を戦火から守る事だって出来ると思っていた・・・だが、俺は・・・その『力』を、議長に頼ったことで、議長の『傀儡』になっている自分に気づかなかった・・・。初めてその真意に気づいたのが・・・『フリーダム』と『アークエンジェル』が落とされたと思ったときだった・・・」

「・・・。」
カガリは黙ってそれを聞いていた。

「カガリも『アークエンジェル』に乗っていることを知っていて・・・俺は目の前が真っ暗になった・・・。ディオキアの海岸で再会したとき、俺が君をなじったこと・・・それが全て議長の思惑に感化された自分に気づかずに・・・俺はただ君を苦しめて―――『オーブ』を撃とうとして…」

「私もだ・・・」
カガリの言葉に、アスランはふと話を止め、カガリの表情を見つめる。

「・・・私も『首長会』を抑えられないばかりか・・・国を守る為とはいえ、自分の心を殺して・・・セイランの言うままに流され・・・結婚までしそうになった・・・。お前が私を想ってくれた気持ちを知りながら・・・。」

金の瞳が潤んでいく。

「でももし、『議長』の言う『ディステニィープラン』が在ったなら……私達、巡り合えなかっただろうな…。」

カガリが呟く。
「『戦争』もなく…ただ『決められた道』だけを進んで―――そして、ユウナと結婚して・・・」

「俺もそうだ…」
アスランも答える。
「…きっと、そのままの運命を受け入れて、生き続け、ラクスと結婚して…」

「…だけど…きっとどんなに『決められた道』だけを歩かされたとしても、『人の心』まで、本当に支配出来るのかな…?」

カガリが静かに言葉を続ける。
「人は『感情』があるから…嬉しいことも、悲しいことも、全部受け入れていけるから、『夢』や『希望』を持つ事できるんだ。そうやって、きっと死ぬまで『自分』でありつづけようとする。それが『大切な事』だって…知っていながら、私は『運命』に抗えなくて・・・私は国民の為、私が心を殺せば、皆、幸せに暮らしていけるなら、「それでいい」って思って・・・でも『キラ』や『ラクス』は言ったんだ…『本物の自分を捨てたら・・・私だけでなく『オーブ』の人たちも、幸せになんてなれないよ』・・・って・・・。ううん、それだけじゃない! 私は『戦いをさせたくないから戦う』と言ったお前の気持ちも考えてやれずに、お前を苦しめて―――」
「違う!カガリ! それは―――」

アスランの言葉を遮り、カガリは顔を上げると、手に震えるほどの力を込め、涙をたたえながら、真っ直ぐにアスランを見つめて言った。
「私は道を誤りそうになった・・・だから、私は…私は今度こそ道を間違えたりしない。この『オーブ』で私の『夢』と『希望』を叶えたいんだ。・・・『他国への侵略を許さず、他国からの侵略を許さず、他国の戦闘に介入しない』…その『オーブの理念』を護り抜いて、優しくて・・・温かくって・・・争いのない、幸せな『国』にする為に…そして、お前には―――」

「カガリ…」
アスランも顔を上げて、カガリを見つめ返す。

カガリは一旦、頭を振って言葉を区切ると、話し続けた。
「私は、お前達と一緒に『宇宙(そら)』上がることは出来ない・・・私は・・・私の『夢』と『希望』が詰まったこの国を、今度こそ、私が護りたいんだ。」
迷いのない『金の瞳』―――

アスランはその姿が眩しかった。

何時からだろう・・・その、迷いのない、真っ直ぐな金の瞳に惹かれたのは・・・。

そう・・・初めて会ったときから、無邪気に笑ったり、怒ったり、悲しんだり―――心の中を開いたままの純粋な金の瞳に、とりこまれていたのかもしれない。

その時―――アスランは初めて自分の中の正直な気持ちに気がついた。

カガリが『代表首長』になってから、アスランは見た事が無かった。


―――『夢』と『希望』に満ち溢れた彼女の『心から溢れる、眩しい笑顔』を・・・
   
セイラン家に牛耳られ、『彼女が護りたかった『オーブ』の理念』を忘れてしまった者達に、懸命に働きかけ続ける彼女から、次第に失われていく『彼女の笑顔』―――



―――『彼女の笑顔』・・・ただ・・・それを護りたかったんだ・・・。

・・・to be Continued.
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ