novel

□Red Nose
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Red Nose

「クシュン、クシュン、クシュン!」
「風邪ですか?准将。」
アスランの見事なまでの三連続のくしゃみに,物珍しそうに男性部下の一人が声をかけてきた。
遺伝子操作を受けて生まれてきているコーディネーターは,元々が病気をしにくい。だからつい珍しさが先に立ったのだろう。
「いや、急に冷えてきたからだろうな。地球の気候は油断ならないよ。」
そう言って苦笑しながら、アスランは滅多に使わないゆえ、机の隅でほこりをかぶりかけていたティッシュペーパーに手を伸ばした。
プラントでは気候も管理されて、その日の天候の予定表が送られてくるから対策に問題はない。だがいかな温暖な気候とはいえ、オーブもやはり地球の自然の只中にある国だ。ちょっとした気候の変化が急に訪れてくる。
ここに来て10年近く経ったわけだが、やはりまだまだ地球の自然の強さには悪漢されるところがある。
「でも准将、今のクシャミ3回だったじゃないですか!ラッキーですよ♪」
向かいの並びのディスクに座っていた女性将校が妙に明るい声で話し掛けてきた。」
「なんですか?その「3回でラッキー」というのは。」
不思議そうに聞き返すアスランに、女性将校は意味ありげにウインクすると、可笑しそうにいった。
「知らないんですか〜? 地球では「クシャミ1回で誰かに褒められている」「2回でけなされている」「3回で惚れられてる」っていうんですよ。まぁげんかつぎ程度のものですけど。」
「ふ〜ん・・・」
自然の反応でさえ,そんな風に楽しんだりするあたり、まだこの国に対しても勉強不十分だな。
そう思いつつ、アスランはティッシュをくずかごへダイレクトでシュートインさせると、一次休めた手を再び動かそうとしたその時だった。
「惚れられた・・・かはどうか分かりませんが、准将、こんな物が行政府から直接軍管理部に届いておりましたが・・・」
先ほどの男性部下が一つの決済版をアスランに手渡した。
それを見て「あっ!」とアスランが声をあげる。
そこには―――

【2012.12.20 行政府発 
気たる2012.12.24 14:00 SGB78型運輸機一台チャーター要 よろしく頼む
                            行政府管理員】

事務的な文書の隣には、よく見慣れたサインが記されている。

――――「カガリ・ユラ・アスハ」

公印の下になっていて見えにくいが、カガリの筆圧がそこにきちんとラインを沿っていた。

「24日ですか。随分急ですね。しかもウチで使っている中でも100人規模の部隊に使う運行きですよ。一体行政府が何に使うんだか・・・」
「急な視察が入ったんじゃないですか?」
男性部下のややため息混じりの声と、女性将校の落ち着いた声が交互に響く。
「でもそうなるとこのヘリ運転できる人員確保が必要ですね。この日比較的時間がありそうなのは―――」
そういって事務官が各員の予定表を開きかけたとき、<ガタン!>と椅子が倒れる音と共に
「俺が行く!」
「「「准将!?」」」
「何か変か? その日俺は非番だし、SGBくらい操縦できる」
「で、でも、准将自らなさらずとも、操縦士くらい・・・」
「いいや、俺が行く。俺でなければならないんだ!」
(そう・・・カガリを守るのは俺だ。誰が他の者に任せられるものか!)
あっけに取られたような部下達と対照的に、揺らめく炎を湛えたような翡翠の瞳が有無を言わせぬ空気を纏って立っていた。

***

12.24 14:00
軍部のヘリポートに向ったアスランは、驚いて目を見開く。
カガリが出かけるなら、と、厳重な警備を立案し、行政府にも連絡を入れたはず。
それなのに軍部はおろか、SPの一人も姿が見えない。
と、そこへ―――
「あれ?お前が来たのか。」
後ろから掛けられた声は、緊張感の欠片もないが間違いなく大事な彼女のそれ。
「カガ―――」
振り向きざまに声をかけようとした瞬間、アスランが絶句する。
いつものスーツ姿かとばかり思い込んでいた。ところが目に飛び込んできたカガリの姿は
「赤い生地に白いモールのついた上着」「頭には赤地に白いポンポンのついた三角帽子」そして何より圧巻なのが「膝上10cmのモールのついた赤生地のスカート」
つまりは―――「ミニスカサンタクロース」そのもの。
「カガリ、その姿・・・」
カガリの金髪と金の瞳にマッチしたそれはどこまでも愛らしく、しかも細く美しい足のラインをモールがさりげなく縁取っている。
思わず見ほれるアスランに、カガリが気づいてスカートのすそを引っ張りながら、急に赤面した。
「ば、ばかっ!あんまり見るなっ! こ、こうした方が「子ども達も喜ぶし、トナカイも多分喜んでくっついてくるから」って///」
「『子ども達』・・・?」
「あ、今日の内容細かく話していなかったな。ラクスに頼まれて、マルキオ導師様のところの子ども達に、クリスマスプレゼント届けるんだ。」
カガリが視線を促すと、確かに輸送機にサンタが持つような大袋が幾つも運び込まれている。
(そうか・・・だからSGBみたいな大きな輸送機が必要・・・というわけか。)
にしては大きすぎるくらいだが・・・きっとラクス達からの分以外に、カガリ自身がプレゼントしたいものも入っているんだろう。
だが・・・
「『トナカイも喜んでくっついて』・・・って・・・」
多分『トナカイ=俺』の事だろう。
「よくわからんが、「クリスマスはこの格好をしなきゃいけない!」って通信で何度も言われたんだ。「トナカイもそのほうがやる気出してくれる」って」
「誰が言った?」
「ラクス。」
「やっぱり・・・」
カガリは基本的に信仰の対象はハウメアだ。だが多民族国家のオーブは宗教も入り混じって存在し、クリスマスというものもあることは知っているが、表立って大きなパーティやイベントはしないため、よくは知らない。しかも素直な故、ラクスに言われたらそのとおり信じ込んだのだろう。柔らかな笑顔のラクスが写るモニターの前で「うん、うん、」と頷きながらメモを取っている姿が目に見えるようだ。しかもカガリが個人的に出かけるとしたら、俺が彼女の護衛に一番に名乗り出る事も折込済みで・・・
「そういえば、軍令部から「風邪ひいたみたいだ」って聴いていたけど、大丈夫なのか?鼻、赤いし。」
心配して覗き込むカガリにアスランは笑顔で言った。
「大丈夫。さっきはちょっと鼻かんだりしていたけど、カガリの顔見たら風邪なんてどこか行ったよ。」
「そうか!だったら良かった。じゃぁ出発するぞ!」
元気なサンタは『赤鼻のトナカイのひくソリ』ならぬ、『大型運輸機』に乗り込むと、一路教会へと向った。

***

「わぁ!カガリだぁぁ!」
「違う!今日は「サンタさん」だっ!」
あっという間に集まってくる子ども達を前に訂正を促すと、カガリは笑顔で一人一人に声をかけながらプレゼントを配っている。
「アスランだ!」
「アスランは「サンタさん」じゃないの?」
口々に問う子ども達に、アスランは苦笑する。
「違うよ。俺は今日は『トナカイ』。サンタを連れてくるお仕事だ。」
「知ってるー!ラクスお姉ちゃんがいつも言ってる!「カガリのことはいつもアスランが守っているから大丈夫だ」って!」
「ラクスが!?//////」
「「「うん!」」」
優しく柔和な女神も、子ども達に何を吹き込んでいるか分からない。訂正しようか戸惑っていると、マルキオ導師が声を掛けてくれた。
「みんな、貴方達の事が大好きなのですよ。ラクス様もキラ君もカガリ様も・・・当然君の事もね。」
「・・・」
そういえば、あまり人に好かれたと言う記憶がない。母は離れていた挙句そのまま血のバレンタインで亡くなり、父は俺の事を愛してくれていたのか分からないまま。
「カガリ様は時間があると欠かさず来て下さるのですよ。「オーブのことでお忙しいでしょうから」とご辞退した事もありますが、そういうとカガリ様は必ず笑ってこうおっしゃるのです。『もう、シンみたいな子を二度と作ってはいけない』と。」
そうか・・・カガリはずっとシンのように家族を無くした者達のことを思って・・・守ろうとしているのか・・・
「だから『親を、家族を無くした子達はみんな、ラクスや私達の子ども。絶対守ってみせる』とね。」
「そうですか・・・」
そう言って視線を伸ばせば、可愛いサンタは無邪気に子ども達と笑いあっていた。

***

「はぁ〜疲れた〜」
輸送機の後ろでカガリが「うーん」と背を伸ばす。
「お疲れ様。いくら体力自慢のカガリでも、流石に子ども達相手じゃたまらないだろ。」
「そんな事ないぞ!私だってまだまだ若いんだから!・・・ってそれより」
「うん?」
「あの子ども達が「プレゼントのお礼に」って歌ってくれた歌。・・・何だっけ?」
そう、プレゼントをめいめい受け取った子ども達は、「お礼に」とクリスマスソングをうたってくれたのだ。曲はもちろん―――
「アレは『赤鼻のトナカイ』って言う歌だよ。」
「そうか・・・なんか聴いていたら「お前っぽい歌だな」って思った。」
そう言ってクスクス笑うカガリ。少々気分のいい印象は受けないが、一応理由は聞いてみる。
「何で俺なんだ?」
「だって・・・初めて会った時は、そりゃ強いなって思ったけど、次に会った時は「キラを殺した」って悩んで泣いて・・・居場所がなくって危なっかしい感じだったし、その後もZAFTに戻ったと思えば脱走してくるし・・・やっぱり危なっかしいな、って思っていたけど、それでも今度はずっと・・・一緒にオーブを・・・守ってくれて・・・うれし・・・・・・」
「・・・カガリ・・・?」
急に聞こえなくなった声に、操縦をオートにして振り向いてみれば、もうサンタはスースーと愛らしい寝息を立てて夢の中にいた。
『いつも泣いてたトナカイさんは、今宵こそはと、喜びました』
「本当に、いつも君には救われっぱなしだな。」
だから―――
「サンタを守る為なら、トナカイはどんなにも強くなって見せるよ。」
そう言って閉じたままの瞳にそっと口付ける。
クスリと微笑んだサンタの笑顔、
―――それがトナカイにとっては最高のプレゼントなんだ。

・・・fin

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