Dream NovelT


□observation? 〜wind's trick〜
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互いに見つめ合い動悸がしたらもう、言い訳は不可能。それは当事者双方がよく知る事実である。痛くて、痛い胸を抑える。重圧から解放されたいのに視線は捕らえられたまま。逸らすことなど出来るはずもない。


塩味を乗せた風がいたずらに二つの視線を遮るかの如く吹き荒れたとしても、その荒風によって舞い上がる髪が二人の境界を為したとしても、ひとたび絡まればそう簡単には解けない、重い視線。



船体は南風を帆一杯に受け取り、その重い巨体を急ぎ足で北方に進めていた。ちょうど航海士が予定としていた方角へと誘い込むように吹く風の勢いが追加され、通常よりも船員達の髪を靡かせる風力で海上を滑っていた。

大帆から漏れた風が大所帯の船上でも際立つオレンジの帽子を捕らえ、持ち主の頭からふわりとそれを持ち上げた。

「っと、危ねぇ」

そっと自分から逃げて行こうとしたお気に入りのオレンジに手をやり再び頭に押し付けたエースは、テンガロンハットに添えた手をそのままに空を仰いだ。
「…良い風が吹いてるな。だが、コイツァやれねーよ」

気に入ってんだ、とエースは自慢げに自分の帽子を摩り、攫って行ってしまおうとした風を咎めること無くそれが流れていく方向へ目を運ばせてた。


そこら中で鳴る心地良い風音の中、バタバタと忙しない足音が響く。各隊の部下達のものだ。
南風の力添えにより船の進行状況は安定しているとは言え、海上を舞う風は実に気まぐれだ。
先程の自分への悪戯もあったことだし、警戒態勢は万全にしておくに越したことはない。

やはりここは、偉大なる航路、グランドラインなのだ。



バタバタ――

エースはせっせと働く部下達の様子に感心、感心、とその場で瞳を閉じ、所々で響き交う音を拾うべく聴覚を少しだけ研ぎ澄ましながら風を感じていた。

男達の足音をBGMとするなんて色気指数ゼロだな、と静かに苦笑していたところ一層強い風が通り過ぎ、多少の驚きの感を交えながらうっすらと目を開くと、目の前を白い筋が一瞬にして走り去った。

キラキラと日光を反射させて宙を舞う筋。

咄嗟にその持ち前の反射神経を活かし、白筋の端を掴んで掌いっぱいに広がるさらさらとした感触に首を傾げる。

「…シルク…か」
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