ひめひび

□2010-2011拍手ログ
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【10月:ひめひび2:顕】





 遠距離恋愛のいい所は、自分が最低に格好悪い時を見せなくて済む所だ。


「はぁ……」


 携帯電話を見つめて、椅子の上に体育座りしている顕に、見兼ねたアルバートが尋ねた。
 昼休みである。周囲のクラスメイト達は三々五々に散らばって弁当やら購買のパンやらを食べつつ、賑やいでいる。


「どうしたの、顕。珍しく元気がないね」
「アルルン……」


 目の前のパンには手をつけず、顕は机の上にのの字を書いた。


「実はさあ、今日って僕チンの誕生日なんだよね」
「うん、そうだね。おめでとう顕」
「ありがとう! って、やっぱり足りないよ〜〜〜〜!」
「足りないって、何が」
「菜々美ちゃんからの『おめでとう』だよ!」
「菜々美は今日が顕の誕生日だって事、知ってるの?」
「うん。でも毎日メールしてるけど全ッ然それっぽい話題にならないし……もしかして忘れてるとか!?」
「それなら聞いてみればいいんじゃない?」
「無理だよ!『今日僕の誕生日なんだけど、覚えてる〜?』なんて聞けるわけないって! 大体、本当に忘れられてたら僕のガラスのハートは粉々だよ!」
「そうだね」
「あ、アルルン――――!?」
「うそうそ。冗談だよ。菜々美に限ってそんなことあるわけないじゃない」
「だよね―! 菜々美ちゃん、僕は君を信じているよ〜〜〜ッ!」

















「菜々美、その小包は?」
「あ、お兄ちゃん。これ、顕くんへのプレゼントなの。本当は自分で渡しに行きたいんだけど、ちょっと無理だから宅配便で送ろうと思って」
「菜々美は優しいな。ちょうどいい、俺がその荷物を出して来てやろう」
「え…? 大丈夫。自分で行くよ」
「ついでだから気にするな。さあ、学校に遅刻するぞ?」
「お兄ちゃんは行かないの?」
「ああ、ちょっとした用があってな」
「そう…。じゃあ、行ってきまーす」
「気をつけてな」




















「ううう……信じてるよ菜々美ちゃ――――ん!」






 
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