ひめひび
□2010-2011拍手ログ
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【流耶/ひめひび】
「ありがとう」
何のてらいもなく言われた言葉に、流耶は不快げに眉を顰めた。
だが、すぐに覆い隠す。
「たいした事じゃないよ」
拾ったハンカチを手渡す。
その掌は柔らかく白い。
天城寺学園初の女生徒。
男ばかりの閉鎖空間に投げ込まれた爆弾――いや、ロケット花火がせいぜいか。
理事長の孫娘は、確かにあの血筋らしく頑固で気が強い。だが、それだけだ。
ボディーガード?
ファンクラブ?
くだらない。
理事長の権威が失墜すれば、そんなものは手の平を返す。それを目の当たりにした時の彼女の顔は、さぞ見物だろう。
(女なんていなくていい)
女なんて身勝手で、煩いだけの生物だ。自分が少しでも不快になると金切り声を上げるくせに、他人がどんな目に合っても無関心。守られて当然の傲慢。
そんなものに、どうやって恋情など抱けようか?
父は正しい。
父は絶対だ。
「流耶くん?」
黙り込んだ彼に、彼女が心配そうな顔で振り向く。それが流耶には、怪訝な顔としか映らない。
歪んだレンズは、歪んだ像しか結ばない。
「早く行きなよ。授業遅刻するよ?」
企みを上手に隠して、流耶は彼女に手を振った。
事件発覚まで一週間。
そして、彼のファムファタールに出会うまでは、まだ数ヶ月の時を要していた。