ひめひび

□2010-2011拍手ログ
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【ひめひび/林斗】





 甘い香りが、彼女のやわらかい髪に染み込んでいる。
 いつものシャンプーの香りじゃない。
 甘く香ばしいカカオの香り。少し茶色がかったその髪色と相まって、彼女自身がチョコレートみたいに思えてくる。
 彼女の部屋のベッドの上で、膝に抱えた彼女の髪を撫でていた俺は、そのひと房を摘んで囁いた。


「ねえ、恋ちゃん。食べてもいい?」
「はあ!?」


 ぐりん、と勢い良く彼女が振り向く。
 その頬は薄く上気していた。
 

「何をですか!?」
「勿論、君を」
「!!」


 途端、彼女は真っ赤になる。


「ダメです!!」
「なんで? だってとっても美味しそうなんだもの。だからちょっとだけ。ね?」
「ダメったらダメ!! っていうか、ここ寮だし!!」
「いいじゃない。普通のマンションよりは壁薄いけど、俺は気にしないよ?」
「気にしてください!!」


 ムキになって慌てる彼女が可愛くて、俺は更に悪ノリしたくなった。半分は冗談、もう半分は勿論本気。
 顎に手を添えると、彼女は戸惑いながらも目を伏せた。もうほとんど条件反射になっている。やわらかい唇を吸うと、さっき食べたオランジの甘酸っぱい味がした。
 絡めた舌先の温度に、忽ち彼女が蕩けていく。ショコラオランジュみたいに。


「ねえ、恋ちゃん」


 可愛い恋人を押し倒しながら、俺はその耳元に甘く甘く囁いた。


「忍とバレンタインチョコの練習なんてしてないで、全部俺の所に持っておいで」










 
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