ひめひび

□一緒にいた、その理由
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 例えば、生徒会室で資料作りをしている時。
 無意識に手を伸ばした先に、ちゃんとホッチキスがある。

 カション、カション、カション……と留めていく内に、カチリと芯が切れると、探す間もなく、「はい、どうぞ」と補充の芯を差し出される。




 彼は、そんな細やかな気遣いの人だった。僕もそれなりに用意は周到な方だと自負しているが、彼には及ばない。彼は相手の性格や癖を把握し、それによって手段や言い回しを使い分けるのがとても上手だった。
 しかし、僕がそれを褒める時、いつも彼の表情にはほんの僅かなかげりがあったように思う。


「貴方に褒められるような事じゃないんですよ、大和さん」


 そう言って、いつも話題を切り替えた。
 彼の言葉が謙遜や慎ましさからではなく、自嘲だったと知ったのは後の話だ。





 そう、これはずっと昔の話





 今の彼は、かつての仮面を脱ぎ捨て、教室の隅でひとり無表情に窓の外を見つめている。
 彼は僕の視線に気づくと、彼は剣呑に目を細めた。


「何? 俺に言いたい事があるならさっさと言いなよ、大和さん?」









一緒にいた、その理由






 
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