ブリスグランマ

悪用禁止
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食堂には夕餉を迎える俺と兵助とその他数人の下級生がいた。兵助は豆腐料理に囲まれたおぼんを前に幸せそうな顔をしている。


「今日はおもしろいことなかったなぁ、雷蔵もなんか怒ってたし」
「怒ってた?」
「うん、さっきも三郎とちょっともめてた」
「へえ…なんだろうな」


兵助は何ものっていない真っ白な豆腐を箸で切り割って口に運んだ。三郎に思い当たる節がありすぎてそのもめている現場が想像できた。心の内で苦笑していると兵助が小皿を持って席を立った。


「おばちゃーん、豆腐おかわり」


俺はハッとして懐からあの小瓶を取り出した。そして静かに栓を抜くと、周りの目を見計らって兵助の味噌汁に素早く中身の液体を数滴垂らした。それをしまったすぐ後に兵助がこっちに戻ってきた。


「八見て、豆腐二個くれた」
「あ、ああ、よかったな」


嬉しそうに小皿を俺に向けて、俺の正面の席につくとその豆腐をおいしそうに食べだした。




「…ごちそうさまでした」


兵助は一番最後にあの味噌汁を飲み干した。俺はおぼんをカウンターに運ぶ兵助を横目で見ていた。それから自分も片付けようと席を立つと、兵助が俺に言った。


「私、もう部屋戻るから」
「…え?」


それは少なからず異変だった。俺を待つこともせずさっさと廊下に出ていってしまった。俺もカウンターにおぼんを置いて、兵助の後を静かに追った。




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