ブリスグランマ

ツンデレ?
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「納得できません」


つまらなそうに言ったのは左吉だった。


「仕方がないだろう、帳簿が合わないんじゃ鍛錬にも行けん」
「だから、それは委員会の時に…」
「すまない左吉」


くるりと左吉に背を向けまた帳簿と睨み合う。悪いのは分かっている。左吉を傷付けているのも、気持ちを無駄にしているのも。ただタイミングが合わないだけなんだ。


「先輩…そんなに嫌ですか」


重たい小さな声が引っかかるように鼓膜をゆらした。


「え?」
「僕とやるのが嫌なんですか」


振り向いたら左吉が泣いた。声を潜める様子はないが、それでも目尻からは静かに静かに涙が流れていた。


「さ、きち」
「調子のってごめんなさい、もうやめますから」


自ら涙を拭った左吉は素早く立ち上がり逃げるように俺の部屋から出た。


「……」


帳簿を見下ろす。並べられた数字に感情はない。でも、左吉は泣くことができる。何ももたらさない数字と格闘するよりも、左吉の涙を拭いてやることの方が、大切で難しいん。


「…左吉」


襖の向こうに屈んでいるであろう左吉を呼んだ。返事はないが、確かにそこには左吉がいた。


「入れ」
「…いやです」
「抱っこされなきゃ入れないか?」


がたっと襖が開いた。涙で瞳を光らせる左吉が現れて俺はニヤついた。


「ばかにしないでくださいっ」
「来い、左吉」
「…え…」


戸惑ったように眉を寄せながら左吉は襖を閉じた。ゆっくりとした歩調で俺の目前までくる。


「僕…」
「やるぞ」
「…えっ」
「嫌か?」
「そんな…でも、何で」
「したいからだ」
「ちょ、帳簿は…」
「そんなもの、委員会でお前と一緒に合わせればいいだろう」


呆然とする左吉の腰に腕を回し引き寄せ、目尻の涙を指ですくい、それから顎を持ち唇を吸った。俺に似合わない可愛らしい音をたてて唇を離す。


「……しおえ、せんぱい…」
「灯り消すか」


蝋燭に顔を向けたとき、空いた胸に頬を赤くした左吉が飛び込んできた。






おわり



090804



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