ブリスグランマ

いぬの飼われ方
1ページ/6ページ



「阿呆な犬は捨てられるぞ」


朝のランニングを終えて井戸水で顔を洗っていた。地下の水は冷たくて新鮮な匂いがした。顔を上げたとき、腕を組んで仁王立ちになった仙蔵と目が合った。


「あ、あほう?」
「長次が起きてこない理由は解るだろう」


ため息混じりに仙蔵は言った。そう言えばまだ長次が起きてこない。ランニングにも参加しなかったし、おはようってキスしても起きなかった。でも理由はあまり思い浮かばなかった。


「え?……なんで?」


仙蔵が私に一歩近づいた。それから鋭い目つきで私を見下ろした。


「殺されたくなったらもう二度と夜中にあんなでかい声で喘ぎまわるんじゃないぞこの発情期野郎」


怒気を含んだ静かな声でそう言うと仙蔵は長屋に戻っていった。その声に少し背中が冷えた。二つ三つ離れたい組の部屋まで私の声が聞こえているのか。それがうるさかったから仙蔵は怒ってたのか。井戸を覗きながら昨日のことを思い出した。昨日は、最初は自分でやってた。でも長次が欲しくなったから、起こして、挿れてもらった。…それだけ、だぞ?


「…えー?」


何がいけないのか分からなかった。やらなきゃいいのか?長次はいやなのか?長次にいやがられるのは絶対嫌だ。だけど、長次とできないなんて無理だ。良い対策が思い浮かばないまま、長次を起こしに部屋に向かった。




「…じ…長次、朝だぞ長次」


目を薄く開くと制服を着た小平太が俺の体を揺さぶっているのが見えた。俺はそんなに眠っていたか。体を起こして目をこする。


「よく寝たな」


小平太がふわりと笑った。俺が頷くと小平太は立ち上がり、足早に部屋を出て行った。避けていると分かってしまった。思い当たる節はないが、あるとすれば昨夜のことだろう。そっとしておくのが一番か。




次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ