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□声の意味(k+h)
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「ケンちゃん」


呼んだら、返ってくる、優しい瞳。好き。


「ケンちゃん」


呼ぶことに意味なんかなくても、答えてくれる。もっと好き。


「ケンちゃん」


でも三回目、俺は自分の言葉に意味を持たせた。


「どないやねん、彼女とは」


ケンちゃんの人生も、生活も、ケンちゃんのもので。
俺が入る余地なんかないことくらい分かってる。

それでもこうやって、時間を作ってせっせと会っている理由を知りたくて。


「ハイドさん、ストレートですなぁ」


煙草をふかしながら、ケンちゃんはふにゃっと笑う。


「せやから、どないやねんて、彼女とは」


答えが欲しい。
急かす俺に、


「別に。普通やね」

と返す。


「普通て何?」

「普通は普通やん。良くもなく、悪くもない」


彼女と上手くいかなくて、その埋め合わせ、なら分かる。

でも、そうじゃなくてもお互いの部屋に、寝る間も惜しんでせっせと通う。


所詮、勝ち目のない勝負。
ほんの僅かな嫉妬すらバカらしい。


でもねケンちゃん。
俺はこんな気持ちなんだ。


彼女より優位に立ちたい。
少しでいいから。


毎日会える特権なんて、優位の内に入らない。
だって俺はどうあがいたって、ケンちゃんの「恋人」にはなれないから。


「ほな、普通の恋人さん」


俺は少しだけ嫌味を込めて(ケンちゃんに届いたかはともかく)、シャンパンを注いだグラスを差し出した。


「今夜はどうぞ、泊まっていって下さい」


そう、俺にはこれが出来る。


『友達の』家に酔って泊まっても不思議はない。
そして明日は一緒に出勤。

せめてこのくらいやらせてよ。


『特別な』友達の座は、誰にも譲るつもりはないから。


fin.

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