Netzach

□a small birthday party
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「魅上さん、あの、少し、いいですか?」


その言葉に、私はゆっくりと振り向いた。

最近、職場の女でやけに絡んでくる奴が居る。

時間どおりに仕事を終わらせ、時間どおりに事務所を出る。

そんな毎日をただ過ごしていただけの私にとっては、特に接点もないような人間と接するのは時間の無駄になるだけだ。

先日、一度だけその旨を告げた。

…はずだった。


「これだけですから。お願いします…!」

何度となく、時間内に終わらせられなかった自分の仕事について質問をしてくる。

どうもこちらの本意を理解してくれないようだった。


「…私は今日はジムがある」


そう、週に二度の定期的なジム通いは、たとえ年度末であっても欠かしたことはない。

加えて、神への奉仕も。

こんなことで生活のリズムを狂わされることは不愉快だ。

私は正面を向いてドアへと急いだ。


「私がこの仕事を今日中に終わらせないと、魅上さんにとっても損だと思いますけど」


眉根をひそめて向けた視線の先には、必要以上に楽しそうに笑う姿。

そのまま視線を上げていくと、昼の仕事が必要以上にずれ込むと夜に自由に生活できない私の弱点を知ってあえて言っているのだろう、勝ち誇った顔があった。


***


「魅上さんって、誕生日はいつなんですか?」

「…関係ないことを職場で話すべきではないと思うが?」

「いいじゃないですか、減るもんじゃないですし…で、いつなんですか?」


一体どういうつもりでいるのか。

明らかに私の自由な時間を侵害しているという自覚がない。

答える以外にないかと小さくため息をついて、低い声で返事を返す。


「……6/7だ。」

「えーーーーーーーーーーーーーーーーー!」

「耳障りだ、その高い声をどうにかしろ」


罪というものをどこまで区切ればいいのかわからない。

神に伺いを立てるべきだというのは重々承知だが、どうしてもこの女の場合だけは削除したほうがいいのではないかとまで思えてくる。

感覚が狂う。

公正妥当に裁きをすることが私の使命だというのに。


「なんでそんな大事な日に普通にジムに通おうとしてるんですか!お祝いしましょう!!」

「私としては放っておいてくれることが一番の祝いだが」

「そういうわけにはいきません!ケーキ買って来ます!!帰っちゃダメですよ?!」


勢いよくまくし立てて、そのまま出て行ってしまった。

部屋の空気はまだ少し蒸し暑く、少しだけネクタイをゆるめる。


「何を…」


気づけば、自分の表情には苦笑とはいえ笑みという新しいものが生まれていた。


この感情はまだ分からない。


神への忠誠心と並ぶほどのものかさえ。


ただ


私の中ではもうマイナスなイメージはついていなかった。




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