Netzach

□Even I love his blood
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未だ完治する事のない焼けただれた薄い皮膚をそっと指でなぞる。


「痛い…?」


分かっているなら聞くなとでもいいだげな視線にぶつかったが、私はそれを無視してもう一度「痛い?」と彼に問うた。

「それなりにな…」

返ってきた、素っ気ない返事に私はソファーを占領する彼の脚に躊躇なく乗り上げた。


先程より、ずいぶんと愉快そうな顔で「欲求不満か?」と冷やかしの言葉を吐いた彼を無視し、今度はその傷痕に直接舌を這わせる。


「っ…」


さすがに痛むのか彼の顔が少し歪んだ。


「痛い?」



舌を這わせたまま静かに問う。


「やめろ…。汚いだろ?」


静かだがいつもよりトーンの下がった科白が返ってくる。


「大丈夫よ。動物だって傷を舐めて治すじゃない…」


「違う、お前の体に悪い。他人の血液に傷のある手で触れるなって聞いたことないのか?」


ましてや舐めるなんて問題外だと言い放ち、その両腕が私を引き剥がそうとした。
だが、私はそれをよしとはしない。


邪魔な腕に血がにじむほど爪を立てたまま問う。


「何故?」


「だから、衛生上悪いって言ってるだろ!」


そう怒鳴った、彼の腕に更に深く爪を食い込ませる。


「っ…」


私の長い爪と彼の皮膚の間に赤い線が描き出されていく。


「何故?」


不毛な問いを譫言のように吐きながらそっと爪を引き、新しく私が作った傷口に舌を這わせた。


彼は腕を引き戻そうとしたが、目線だけを上げた私と視線がぶつかりそれは停止した。



猫の眼に月に映える深海がくっきりと写り込む。


「何故?血さえもこんなに愛おしいのに…」


その深紅一滴でさえ、貴方は私を狂わせるのに…。



猫の眼はゆっくりと深海に飲み込まれ溶けていった。


END

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