Netzach
□Eden
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墓標を照らす月光に誘われ、そっと石に刻まれた文字に指を這わせた。
M,i,h,a,e,l
K,e,e,h,l
冬の夜風にさらされたこの石が如く温度を失ってしまった愛しき人の名。
貴方と言う半身を失った抜け殻は綺麗な雫石さえこぼさない。
貴方の絹と同じ色が私の朽ちた翼を光の下に晒す。
あの日の廃屋と共に貴方を焼き去った、紅蓮に焼かれ爛れ、飛び立つ事も知らぬまま極限の閉塞の中で粉々に砕け散った…
亡くなったものの思い出は美しく、プリズムが如く輝きを放つのに、私の目は耳はそして心はその輝きさえをも拒むように永遠に秒針を刻むことを放棄してしまった。
いっそのこと、このがらくたの繋がった器から魂だけを切り離してしまえればいいのに…この器さえなくなれば朽ちた翼でも貴方の元へと羽ばたいていける。
貴方のいないエデンなんてなんていらない。
貴方のいない世界なんていらない。
貴方が一緒ならば、天国でも地獄でさえも楽園に変えられる…
儚い幸せが消えぬうちに、ほどけないようこの手を・・・
『わがままな私を許して・・・』
→後書き