おお振り

□耳元で囁かれた言葉は、
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「あべ!今日が誕生日って、何で言ってくんないの!」

「え?あぁ」

「あぁ、じゃないっ!」


俺は咄嗟にしまった、と思った。
午前中の授業が終わるや否や、血相を変えて9組に飛び込んできたこの女は、誰でもない、俺の彼女である。
そして今日12月11日は俺の誕生日なのである。


「あれー、そんなに慌てどうしたの?」


水谷が腑抜けた声を掛けた。


「聞いてよ水谷!阿部ってばあたしが今日栄口に教えてもらうまで誕生日のこと言ってくれなかったんだよ!」


彼女はそこまで一言で言い切ると、乱れた息を整えつつ、俺の前の席に行儀良く座った。
なかなか怒っているようで、わざとらしく眉間にシワなんか寄せてやがる。(シワとれなくなっても知んねーぞ)


「どういうことですかこれは」

「何が」


俺のふてぶてしい態度に(いや、反省はしている)彼女は、あのねぇ!と声を荒らげ机をバンと叩いた。(そんな声で怒ったって怖くねーっつーのバーカ)


「……何で教えてくんなかったのよ」

「別に、誕生日をお前に教える義務なんかねーだろ」

「うわー、阿部さいあくー」

「クソレは黙ってろ」

「はないー阿部がヒドイ!」

「義務とかじゃなくて、か…彼女に誕生日教えるのって基本でしょ!?あたしに祝って欲しくないの!?」

「えーいやー…」


(な、にを言っているんだ俺は)

別に俺だってあいつを怒らせたい訳じゃない。今だってただ俺が悪かった、って一言謝れば済む話なのだ。
こういう時、自分の性格がすごく嫌になる。


「あっそ!阿部はあたしに祝って欲しくなかったわけね!そりゃとんだご迷惑をお掛けしました!」

「いや、そーゆーんじゃなくて、」

「そういう意味以外に何が、あるのよ」


ヤバい。口ではこんなに強気なこと言ってっけどこいつ、泣きそうだ。
過去に何度も喧嘩をしてきたが、これは前代未聞の大喧嘩になるかもしれない。


「……お前、俺だけが悪いみたいに言ってっけどなぁ」

「何よ」

「だ、第一、お前が聞いてこなかったんだろ!」

「ぶ、阿部が可愛いこと言ってる!」

「失せろ水谷」


阿部ひどい!とかほざいている水谷が究極に邪魔なので、俺は今にも泣きそうなこいつを連れて人気の無い廊下に出た。(人がこんなに居ないのは、教室にしか暖房が入っていないせいだ)


「もうわかった、阿部はあたしなんかどうでもいいんだ」

「んなこと言ってねーだろ!」

「同じようなことじゃん!」

「俺だって、お前に祝ってもらいたかったよ」

「は?だったら――」

「んな恥ずかしいこと、自分から言えるわけねーだろ!」


あ、そっか。

俺の人生史上最悪の恥ずかしさを誇るこの言葉に返ってきたこいつの言葉はたったこれだけだった。(んなマヌケな顔してんじゃねーよ)


「そうだよね、なんか急に怒ってごめん」

「や、別にいいけど」

「誕生日おめでと」

「ん」


さっきまでの威勢はどこへ行ったのか、彼女は自らの額を胸に押し当ててきた。右手では俺のシャツをクシャッと握ったりして。(な……なんつー可愛いことを!)


「阿部、今日も部活でしょ?」

「あぁ」

「じゃあ部活してる間にケーキ作る」

「マジ?」

「うんあんまり甘くないやつ」

「そりゃありがたい」

「んで部活終わったら阿部ん家に持ってく」

「や、危ねーから迎え行く」

「んで部屋で2人でケーキ食べよ」

「おー」

「あ」

「どーした」

「プレゼント無いよ!」

「いーよんなの、ケーキで十分」

「そんなの駄目!あっ、じゃあ……」

「なっ!袖引っ張んな!」








(部屋で何でも言うこと聞いてあげる!)
(おまっ、……知んねーからな!)



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阿部くん誕生日おめでとう\(^o^)/

なんか色々ごめんなさいorz


ribon様に提出


091208




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