Un romanzo

□罰
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鼻をつく鉄の臭い。戦場でどんなに嗅いでも慣れないこの悪臭は、血。


「‥だれの血?」
「さぁ?そのあたりはスペインとかじゃないか」



ぴちゃぴちゃと音を立てて血だまりの中を歩いてくる彼の口元には笑み。満足げに唇についた血を嘗めとるその姿に背筋が凍る。



「何人、殺したの?」
「わかんね、お前に近づくやつ全部」


真っ赤に染まった会議室は昔、みんなでワイワイ騒いだ面影を残していない。
壊れた椅子、銃痕、飛び散った血、誰のとつかない体。こんな惨状を目の前にして意外にも俺は饒舌だった。



「すごいね、俺が遅刻したたったの30分でここまでできるもんなんだ」
「当たり前だ、何たっておれだぞ?」



自慢げな彼の笑顔に頬を伝い涙が血の中に落ちた。喉が痛い、声が恐怖に掠れる。
彼の白い手が俺の顔に添えられた。心配そうなその表情に胸が裂けそうになる。



「どこ?」
「何がだ?」
「ドイツ達」
「足元に転がってるじゃねぇか」
「っ‥」


へたりとその場に座り込んだ。血がどんどん服に染み込んでくる。赤くなってくる軍服の裾をじっと見つめる。

だれの血?ドイツ?日本?フランス兄ちゃん?ロシア?今俺の下に流れてる血は誰の血?


「違うよ、これは違う」
「いや、これがあいつらだ」


冷静だった頭を侵食していく恐怖、悲しみ、罪悪。息がつまる。酸欠でクラクラしてきた。
いっそこのまま死にたい。皆が死んだこの場所で一緒に。

ぐんっとお腹に重い衝撃をうける。


「駄目だ」
「っけほ!ごほっ、っは」
「ごめんな、痛かったか?」


ぽんぽんと背中を叩くその優しい温もりに戦慄する。

その温かい手で何人殺したの?何人の血を浴びて何人の断末魔を聞いたの?



「っいや!もうやだっ!」
「イタリア‥」
「やだやだやだ!!こんなのやだ!」
「おい‥」
「みんな起きてよ!嘘!!嘘でしょ?!嘘!嘘なんだ!嘘じゃなきゃ‥」
「嘘じゃない、死んでる。俺が殺したんだ」
「なんで?!なんでよ?!なんで‥っ?!」


血の中で必死に叫んだ。訳がわからない。どうして皆が死んだのか。

嘘、本当は分かってる。気付いてる。


「俺のせいだ」


最初からわかってた。彼が俺が欲しくてこうしたことを。
俺は知ってた。彼がこれ程までに俺の事を愛していたことを。



「ごめんね」
「は?」


ポケットに入っていた小銃をこめかみに当てる。初めて彼が怯えた顔をした。分かる、怖いんだよね。一人取り残されるのが。でもそれが君の罰。

そして死ぬのが俺の罰。


「やめろ‥」
「本当に今までごめんね、」
「やめろおぉぉ!!」
「Ciao.Io non avro bisogno di incontrare piu」


いつの間にか嫌だった血の臭いは気にならなくなり、青かった軍服は赤くなっていた。


end

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