Una novela
□Aimez Italie, je
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『兄ちゃん』
自分を呼ぶイタリアの声が鼓膜に響いた気がした。ゆっくりと瞼をあげる。
煌々と光る電球がまぶしい。そこが見慣れた自分の部屋名ことに気がつきため息をついた。
(夢ね‥‥)
焦がれる相手を夢に見るなんてまるで初恋をしった少年のようだ。自分の意外な、そして恰好の悪い一面に我ながら呆れてしまう。
(‥最近会ってないな)
前に会ったのは一ヶ月前の世界会議。確か挨拶をして少し言葉を交わした程度。
実際、決して仲のよい間柄な訳ではないとはいえ兄という立場上会おうと思えば何時でも会えた。
(それが中々‥)
色んな人間に愛を囁き、注いできた。だというのに本当に愛した相手には会いたいの一つも言えないのだ。
情けない自分にもう一度ため息をつき、起こしていた上体を再びベッドに沈める。
(会いたい‥な)
会ってキスをして、抱きたい。長いこと心の中にあるその欲望。決して果たされることのないそれはいつだって胸のなかで燻っていた。
何百年も前からイタリアを思い続けていた。あの屈託のない笑顔に何度助けられ泣きそうになったか。
叶わないであろう願いであることは知っている。無駄で非生産的だ。でも、わかっていてもどうしても願わずに入られない。
「Aimez Italie, je」
中に零れたそれは誰に聞かれることもなく空気に溶けていった。
(俺を愛して)
end
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