Um romance
□君のだから
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「ハンガリーの髪、いいなぁ」
「はぁ?」
何が楽しいのか、先程から背後で俺の髪をいじっていたイタリアが不意にその手を止め、羨ましそうに呟いた。
イタリアによってピンで止められたり、ゴムで縛られたりしていた髪はイタリアの手から滑り落ちふさりと肩にかかる。
「何がいいんだよ?」
「んーだって髪質もいいし、細いのにさらさらだし‥何より色が好きだな」
「色?」
ちらりと顔にかかる自らの髪を見上げる。
金色にしてはややオレンジがかった色の髪。特に気にしたことはなかったが、改めて見ても別段綺麗な色というわけでは無いように思えた。
ぎぃ、と座っていた椅子の背もたれにもたれ掛かり後ろに立つイタリアを見上げた。顔にかかっていた髪がさらりと後ろに落ちる。
「普通の金だと思うけど。フランスとかイギリスとかともあんま変わんなくねぇか?」
「ヴェー違うよ、ハンガリーの髪は小麦畑っていうか‥稲穂みたいな感じの色じゃん」
本当に綺麗、そう言ってさらりとイタリアの手が髪を梳く。
自分の髪がいいだなんて思ったことなどなかった。
伸ばしているのは切るのが面倒なだけだったし、トリートメントなどと手入れをしたこともない。
「髪とかあんま意識した事無かったな」
「えー!こんな綺麗な髪してるのに勿体なーい!」
何やら不満げな顔で覗き込むイタリアのブラウンの髪が俺の顔にぱらりとかかる。
イタリアの髪は明るめの茶色だ。茶色といっても日が当たると茶というよりは赤に近い色に見えた。
目立つその髪は人込みの中で彼を見つけるのにとても役に立つ。
髪質は男子にしては珍しいほど柔らかく、本人は寝癖がつくだなんだと不満らしいが俺としては手触りや頬に当たった時の感触が気に入っていた。
なによりイタリアの髪はイタリアの、愛する人の一部だ。
それだけで髪の毛一本一本さえも美しく見えるような気がした。
見下ろすイタリアの髪を優しく撫でる。
俺の髪なんか比べるまでもなくこっちの方が全然いい。
「‥俺はお前の髪の方が好きだな」
「えぇーなんでー?」
「なんでもなにもイタリアの髪だからな。世界で1番だ」
「っ‥!」
身じろぐイタリアから俺の顔に垂れる、世界で1番綺麗な髪にちゅっと口づけた。
end
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