Um romance

□終わりと始まり
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年越し。
その行事は特に何をするわけでもなく、ただ時間が過ぎるのを待つという極めて簡単かつ、質素なものである。

しかしその質素さとは裏腹に年を越す、という事は一年の終わりと始まり、つまり重要な区切りの時といってもいいだろう。
誰もが大事な人と一年の終わりと始まりを過ごそうと浮足立っているように見える。

勿論、大事な者がいる自分その例外ではなく――





「イギリス!イギリス!こっち、こっち!はーやーくっ」
「ちょ、待てって!」


前を歩くアメリカの浮かれた声に慌てて返答する。年越しをしようと集まった人々でごった返す街。その熱気と喧騒と混雑に眉を寄せる。

こんなに人口密度の高いところに来たのは何年ぶりだろう。
慣れない人込みを掻き分け進むものの、ずいずいと歩いていくアメリカに追いつける気がしない。

一体なんだってあんなに急いでいるんだ。
図体もでかく、体力のあるアメリカにとってはこの混雑もたいしたことはないのかもしれないが、自分にとってみれば息をするのさえ一苦労なのだ。

先に進んでいくアメリカにだんだんと腹がたってくる。

こんなとこ、来るんじゃなかった。

普段ならこんなところ、特にこんな時期に絶対に訪れたりしない。
あいつが、どうしても行きたいっていうから。
あの時承諾したことを今、深く後悔する。例年通りアメリカと二人で家で過ごせば良かった。
しかし今更後悔したところでもう遅い。

今はとにかくアメリカからはぐれないようにしないと。ばらばらになって新年を迎える等、真っ平だ。



「アメリカ、待てって言ってんだろ!!」


人込みに揉まれながら必死で叫ぶ。
悔しいながらも大柄ではない自分はどんどんと人の波に押され、アメリカから離れていく。
ちっと舌打ちをうち、足でなんとか踏ん張ろうとしたときだった。

ふっと足が地面から浮いた。しまった、と思ったときにはすでに遅く体は中に投げ出された。
地面との衝動にそなえぎゅっと瞼をとじたとき、突然腕を掴んできた手に引き戻される。



「全くイギリスは世話がやけるなぁ」
「アメリカ‥」


目を開けるとそこにはアメリカの呆れ顔。妙にアメリカの顔が近いことに気付いて自分の今の体制に目をやり、ぼっと顔を真っ赤にした。
腕を引っ張られた勢いのまま自分はアメリカの腕の中にすっぽりと納まっていたのだ。

離れようとアメリカの胸板に腕を突っ張るも背中に回された腕がそれを許さない。



「ア、アメリカっ!も、大丈夫だから離しても‥」
「えー離したら君迷子になりそうじゃないか、手は繋ぎたくないとか我が儘いうし」
「この歳で迷子になんてなんねぇ!つか迷子になったら確実に‥」
「あーっ!カウントダウン始まっちゃったじゃないか!」



おまえのせいだぞ、そう続く筈だった文句はアメリカの叫び声によって遮られた。

一体何なんだ。いきなりこんな所に連れて来られ、しかもなんだか急いでいるし、今なんて頭をかかえて落ち込んでいる。
ハンバーガー食い過ぎて頭可笑しくなったんじゃねぇか?

表情にでていたのかアメリカが困ったように眉をハの字にして笑った。



「連れ回しちゃってごめん。あそこでイギリスとカウントダウンしたくてさ」
「え‥」



アメリカが指を指している方を見るとそこは混雑した道から少し外れた噴水に座り寄り添って見つめ合うカップル達。

いやいやいや!その気持ちは嬉しくないことはないけれど!可笑しいだろ!あんな沢山のカップル(勿論男女の)の中に男が二人だなんて!
残念、とため息をつくアメリカには悪いが正直間に合わなくて良かった。


回りでカウントする声がし始める。誰もが時計を見つめ、胸を高鳴らせて新しい年を待つ。


6、5、4、3‥



「ま、イギリスと一緒なら何処でもいっか」
「えっ?」


隣でアメリカが白い息を吐きながら呟いた言葉に目線を向けると唇に何かが押し当てられる。
それがアメリカな唇と気付くまでに時間はいさなくて。



「A HAPPY NEW YEAR!!」


そんな声が回りで聞こえたような気がした。


end
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