Um romance

□Natale felice
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街はクリスマス。
クリスマスとは直訳でイエスを賛美せよ、つまり主であるイエスの降誕された日だ。
しかし現在本当にその意味を理解しているものは極僅かで、クリスマスとは名ばかりの恋人たちの聖夜である。


装飾とイルミネーションで飾られた華やかな街にはラブソングなのかクリスマスソングなのか分からないような歌が流れ、だれもかれもが傍目からみればなんとも歩き難そうなほどにくっつきあいながらこの聖夜を過ごしている。


なんと女々しい行事か、嘆かわしい

そうこの慣習を一蹴したのはいつの事だったか。
その頃はよもや自分までも恋人とクリスマスの街に繰り出す事になるなど思いもしなかった。




「うおぉっ綺麗!」


横でころころと色を変化させるイルミネーションにうっとりとするイタリア。
こうして彼とクリスマスを過ごすようになったのはいつの事だっただろう。

そういえば初めて肉親以外の人間とクリスマスを過ごしたのはイタリアが初めてだったように思う。
あの頃はまだ恋人という関係ではなかったが。
しかし思い返してみればあの時から自分達の物質的な距離は変わっていない。初めてのクリスマスもこうして寄り添うようにくっついて歩いていたっけ。

そのことを思い出し、気恥ずかしくなって首に巻いたマフラーで口元を隠した。



「ドイツどうしたの?ぼーっとして」
「‥いや、たいしたことではない。気にするな」


心配そうな表情でこちらを伺うイタリアの頭を撫でてやる。
えへへ、と嬉しそうに笑うイタリアに顔に顔にかかった髪を耳にかけてやる。

ふと髪の間から覗いた鼻頭が寒さで赤くなっていることに気が付いた。
改めてイタリアの恰好を見てみるとシャツにズボンにダッフルコートとブーツという肌寒そうな軽装。
家に来たときにお洒落でしょー?と笑ってはいたがよく考えれば12月の終わりに着る服装ではない。

現にドイツはコートの下にもう一枚ジャケットを来てマフラーまでしている。



「ドイツどうかし‥‥へ、へ、くちゅっ!」


タイミングよくくしゃみをするイタリアに何故家をでるときにその薄着に気付いてやれなかったのかと後悔する。
まぁ何よりそんな恰好できたイタリアが1番悪いのだが。



「‥全くお前という奴は。今が何月だと思っているんだ」
「ヴェーちょっと薄着だったかー。いやさ、俺のマフラーを兄ちゃんが付けていっちゃって‥っくちゅん!うわー鼻もでてきたよ」



ずーと鼻を啜るイタリアにはぁとため息をつきながら自分の首に巻かれたマフラーを解いて彼の首にかけてやる。

目をぱちくりとさせて驚いたような表情のイタリアになんとなく恥ずかしくなり、ごほんと咳ばらいをした。



「巻いていろ、少しは暖かいはずだ」
「えーでもそしたらお前が寒いだろ?」
「お前と違って鍛えてある」



気にするな、そう笑ってはみたものの実は少し寒かった。どうやら筋肉の厚さでは寒さはカバーできないようだ。
とはいえ、イタリアからマフラーを奪い返すほどではないし何よりイタリアが風邪をひくより自分が風邪をひいたほうが何倍もマシだ。



「行くぞ」
「あっ!待って!」



歩き出そうとイタリアに背を向けた時、ふわぁっと何かが首にかかった。
それが自分のマフラーであると気付くのに時間はいさなくて、くるりと振り返ればニコニコと微笑むイタリア。



「だから‥」
「これなら二人とも暖かいよね」
「‥っ」



いつの間にかぐるりとイタリアと自分の首の回りを一周するマフラーに少し身じろぐ。
ねっ!としたり顔のイタリアの顔が妙に近くなったように感じて顔にかぁっと血が上る。落ち着け、距離は変わっていないはずだ!



「それにこのほうが暖かいし!」
「まぁ、それは‥そうだが‥」



赤くなった顔を見られないようにそっぽを向きながらぼそぼそと答えた。
バクバクと五月蝿い心臓のおとが耳元で聞こえる。ああ恥ずかしいような嬉しいような。
心地いい。そう、そんな感じ。
人目を気にしなくてはとか、みっともないとか、そんな事どうでもいいぐらいに心地がいい。



「‥‥まぁ、いいか」
「じゃあこのままショッピング続行ー!」


腕をひくイタリアの手の温度を感じながらチカチカと光るきらびやかな街の下を歩きだす。

来年も再来年も再々来年もまたこのようなクリスマスを過ごせるように、イエスの御名において神に願いながら。

end
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