Um romance
□有り難いといえば有り難い
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「ドイツあーん」
「む、」
イタリア君のフォークの先についたジャガ芋がドイツさんの口の中に消えていく。先からこの繰り返しである。
またイタリア君が自らの弁当のヴルストにフォークを指したところで小さくため息をついた。
正直、よくもここまで人目を気にせずにいちゃつけるものだと思う。
ここは学校という公共の場であり、そのうえ私という第三者も目の前に座っている。
その状況で男同士、つまり世にいうゲイカップルだというのに一目を憚らずにここまでできるのは呆れを通り越して感服してしまう。
イタリア君はお国柄か元々そういう性格ではあったがドイツさんはどちらかといえば厳格で私よりの人間だったように思う。
しかし今ではイタリア君から差し出されるおかずを少し頬を赤らめながら文句も言わずにぱくついている。
恋とはそこまで人を変えるものなのか。いやはや怖いものである。
「ねードイツ美味しい?」
「ああ、お前の作るものは全部うまい」
「もードイツったら」
「本当だ」
おそらく私がいることなどすっかり忘れ、完全に二人の世界になっている様子を暖かい、いや厳密にいえば生暖かい目で見守る。
(まぁ有り難いといえば有り難いのですがね)
存在を忘れられていることをいいことに鞄から小さなデジカメを取り出しパシャリと撮影する。うん、よく取れている。
場所を変えてもう一枚。これはまた‥。この構図はハンガリーさんがお喜びになりそうだ。
それにしても本当に二人の世界に入っている。
さすがに写真は気付かれるかと思ったがそのそぶりもなく、しかも心なしか彼らのまわりに何やらピンク色のオーラのようなものが見える気がする。
(感服はしますが少し心配です‥)
そんな事を考えながら指だけはずっとシャッターをきり続けていた日本だった。
end
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