Um romance
□Oscurità
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暗闇とはいつの世も、「恐怖」である。
目をこらしても何も見えない。目の前にいるはずのものが見えない。そんな単純な恐怖。
それから逃れるために人は日の当たる場所を好み、夜を魔物の時と忌み嫌った。
また夜を照らすために人は電気を作った。
しかしそれが消えてしまえばいくら文明が進んだとはいえ、この世の夜とは実に真っ暗なわけで――
「あうあああぁぁ!!暗いよおぉぉ!助けてドイツウゥゥ!!」
「こ、こら!暴れるんじゃない!落ち着けイタリア!」
真っ暗になった部屋に響く叫び声と怒鳴り声。先までついていた筈の電球はいまやその温かさすら忘れ、闇に溶け込んでいる。
“停電”。
誰もが恐れるその文明から切り離される事態。明るく照らさせれた部屋に突如訪れた暗闇は人をパニックに陥れる。
暗闇に慣れない視力は目と鼻の先にあるものすら捕らえることはできない。
事実、イタリアには停電の前には隣にいた筈のドイツが全くと言っていいほどに見えていなかった。
「暗いのやだよぉ‥ドイツゥ‥いる?」
「ちゃんとここにいるぞ。ブレーカーが落ちたわけじゃないんだ。業者が来るのを待つしかないな」
ため息まじりに呟かれた言葉に軽く絶望する。
バッテリーが上がっただけならば、それを上げるだけでいい。
家だと兄弟二人でびくびくと怯えながらなので時間がかかるがドイツがいるのだ、簡単だろう、と思っていたのに。
まさか業者が来るまでこの暗闇の中にいなければならないだなんて。
「えぇ?!やだぁ、怖いよぉ」
「心配するな。すぐに直る」
「無理だよぉ‥もう俺泣きそう‥」
「すでに泣いているじゃないか。ったく、ほらこれでどうだ?」
「ヴェ?」
暗闇から伸ばされた手が自分の体を抱え上げて膝に乗せた。
ぎゅう、と太い腕が優しく四肢を包む。後ろから聞こえるドイツの息つがいについ、安心する。よかった、ちゃんと隣にいる。
こんな暗闇のなかに一人取り残されてしまったらきっと気が触れてしまうに違いない。
それにしても、
(ちょっと恥ずかしい、かも‥)
見えていないとは言え、今の自分達の状態は相当恥ずかしい気がする。
いや、ハグならばいつもしているのだがドイツから、しかも後ろから抱え込まれるように抱きしめられるというのが何故か非常に恥ずかしい。
どうやらそれはドイツも同じらしく二つ分のバクバクという心臓の音がやかましかった。
しかしそれはこれっぽっちも不快ではなくそれどころか心地よくさえ感じられる。
恐怖など忘れ、いつまでもこの時間が続けばいいのにと本気で願った。
ピーンポーンと間の抜けたインターホンが業者が訪れたことを報す。
もはや暗いことなどすっかり忘れていて寧ろ電気などつかなくてもよいとまで思った。
同じことを考えているのかドイツも鳴り続けるインターホンを無視し、その体制から動く気配は無い。
「‥ね、ドイツ」
「‥なんだ?」
「業者さん、はやく帰るといいね」
「無視してたらそのうち帰るだろう」
そうして暗闇のなかでどちらからともなく、唇を合わせた。
end
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